フウキンチョウ科

フウキンチョウ科（Thraupidae）

フウキンチョウ科は、鳥類スズメ目に属する分類群です。「フウキンチョウ（風琴鳥）」と総称されますが、この科には伝統的に別のグループとされてきたミツドリ類なども含まれています。広範な分布と多様な形態、生態を持つグループです。

特徴と生態

主に南北アメリカ大陸の熱帯地域に生息しており、南はアルゼンチン北部、北はカナダ南部、そしてガラパゴス諸島にも分布が見られます。多くの種は熱帯林の樹冠部を主な生息場所としています。

形態的には、雄の羽色が非常に色鮮やかである種が多い一方で、雌は比較的地味な色彩を持つ傾向が見られます。食性は多様性に富んでおり、主に昆虫を捕食するもの、花の蜜を吸うもの、そして雑食性のものなど、幅広い食性が確認されています。

系統と分類の歴史

フウキンチョウ科は、スズメ目の中でも特に大きなグループである「nine-primaried oscines（9枚の初列風切羽を持つ鳴禽類）」の一員です。伝統的な分類では、ホオジロ科のフウキンチョウ亜科や、アトリ科のホオジロ亜科フウキンチョウ族として扱われることもありました。

近年、分子系統学的な研究が飛躍的に進展したことにより、フウキンチョウ科の分類は大きく見直され、現在も流動的です。特にKlicka et al. (2007)やWeir et al. (2009)といった研究は、この科の系統関係に大きな変化をもたらしました。

分子データに基づき、過去にホオジロ科、ショウジョウコウカンチョウ科、アメリカムシクイ科、ツバメフウキンチョウ科などに分類されていた多くの属が、フウキンチョウ科に移管されました。例えば、かつてホオジロ科に位置づけられていたフィンチ類やシトド類の一部など、約20属がフウキンチョウ科に含まれることになりました。これらの属はフウキンチョウ科の系統樹内で特定の一箇所にまとまるのではなく、散らばって配置されています。

また、伝統的にショウジョウコウカンチョウ科とされてきたマミジロイカル属（Saltator）は、分子系統では大部分の種がフウキンチョウ科に含まれることが示唆されています。しかし、一部の種（ノドグロイカルなど）は異なる系統位置を示す可能性があり、その分類は議論の的となっています。国際鳥類学会議（IOC）やアメリカ鳥学会（AOU）など、鳥類分類を定める主要な機関によって、これらの属の扱いが異なる状況も見られます。

同様に、伝統的にアメリカムシクイ科に分類されていたマミジロミツドリ属（Coereba）も、分子系統からはフウキンチョウ科内に位置づけられることが分かっています。しかし、この属を単型のマミジロミツドリ科として独立させる説や、分類上の位置が不確定（incertae sedis）であるとする説も存在します。

かつてツバメフウキンチョウのみで構成される単型のツバメフウキンチョウ科（Tersinidae）とされていたグループも、現在ではフウキンチョウ科に統合されています。

一方で、分子系統の結果からフウキンチョウ科から別の科へ移動した属も存在します。例えば、スミレフウキンチョウ属（Euphonia）やミドリフウキンチョウ属（Chlorophonia）は、アトリ科のスミレフウキンチョウ亜科として分離されました。

プエルトリコフウキンチョウ属（Nesospingus）やシトドフウキンチョウ属（Spindalis）など、一部の属はフウキンチョウ族には含まれない系統に位置し、アメリカムシクイ科に近縁である可能性が示唆されていますが、その正確な位置づけについてはさらなる研究が必要です。

ミツドリ類に関しては、伝統的にフウキンチョウ類とは別のグループとして扱われてきました。しかし、近年の分子系統研究により、多くのミツドリ類（ヒワミツドリ属 Dacnis、ルリミツドリ属 Cyanerpes、ハナサシミツドリ属 Diglossa など）がフウキンチョウ科に含まれることが明らかになり、分類が見直されています。

このように、フウキンチョウ科は分子系統によってその範囲と内部構造が大きく組み替えられた、分類学的に非常にダイナミックなグループです。

属と種

国際鳥類学会議（IOC）のリストに基づくと、フウキンチョウ科には非常に多数の属と種が認識されています。前述の通り、近年の分類見直しにより多くの属がこの科に含められるようになったため、その構成は従来の認識から大きく変化しています。

（本項目では個別の属・種のリストは割愛します）

フウキンチョウ科の鳥類は、その鮮やかな色彩や多様な生態から、多くの研究者やバードウォッチャーの関心を集めています。分類の変遷は続いており、今後の研究によってさらに詳細な系統関係が明らかになることが期待されています。

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