フェリクロムポジション

フェリクロムポジションとは

フェリクロムポジション（Fe-Cr Position、Ferrochrome Position）は、磁気テープの録音・再生時に使用されるポジションの一つです。IEC規格ではTYPE IIIに分類されますが、オープンリールやエルカセットではTYPE IIに分類されます。特にコンパクトカセットにおいて、その特異な構造と性能で注目されました。

概要

1973年、ソニーが世界で初めて2層塗りの磁性体を採用した「Duad」を発売したのが、フェリクロムポジションの始まりです。その後、日本コロムビア（DENONブランド）、3M社、BASF社などからも同様の製品が発売されました。

フェリクロムポジションは、高域の再生に優れるものの低域が弱いクロムポジション（ハイポジション、IEC Type II）と、中低域に強いものの高域が弱いノーマルポジション（IEC Type I）の弱点を補完する目的で開発されました。基本構造として、中低域用のγ-ヘマタイトを下層に、高域用の二酸化クロムを上層に塗布した2層構造を持ちます。このため「フェリクロム」「Fe-Cr」テープとも呼ばれます。ただし、上層にコバルト被着酸化鉄を用いたり、特性の異なるコバルト被着酸化鉄を二層塗布するなど、メーカーによって異なる構造も存在しました。

元々はIEC Type Iのみに対応するレコーダーの高域特性を改善するために開発され、後にIEC Type IIIとして正式制定されました。1970年代には、各社の最高価格帯の製品として君臨し、高級音楽用として重宝されました。

特徴と課題

フェリクロムポジションは、高音質を追求した結果、製造工程が複雑になり、専用の録音バイアスと再生イコライザーが必要となりました。しかし、構造上、自動ポジション検知ができないという課題もありました。これらの要因から、採用したメーカーは多くありませんでした。日本では、TDK、日立マクセル、富士フイルムといった大手メーカーは採用せず、同価格帯には音楽録音専用に特化した最上級クラスのノーマルポジションを置いていました。

フェリクロムポジションは、ノーマルポジション専用のカセットレコーダーでも録音が可能でした。初期のクロムポジションテープが中域以下のMOL（最大出力レベル）が低いという弱点があったため、フェリクロムポジションは一定の存在意義を持っていました。しかし、ノーマルポジションとクロムポジションのテープが改良され、クロムポジション対応のレコーダーが増えるにつれて、その存在意義は薄れていきました。

1978年12月1日、3M社がメタルポジション（IEC Type IV）の「Scotch METAFINE」を発売したことで、最高級音楽用カセットテープの役割はメタルポジションに置き換わりました。その後、各社はフェリクロムポジションから撤退し、日本ではソニーと日本コロムビアのみが製造・販売を継続しましたが、両社も1980年代までに販売を終了しました。

技術的詳細

フェリクロムポジションの録音バイアス量は、ノーマルポジションの約1.1倍です。再生イコライザーの時定数は、クロムポジションと同じ70µsと3180µsです。

1970年代に発売された一部のソニーとアイワのラジオカセットレコーダーには、テープセレクターがノーマルポジションとフェリクロムポジションのみに対応する機種がありました。これらの機種では、クロムポジションは録音が不可能でしたが、再生は可能でした。

その後の技術への転用

松下電器産業（現パナソニックホールディングス）は、1978年にマイクロカセット用、1984年にコンパクトカセット用として「オングローム」ブランドで蒸着タイプの磁気テープを発売しました。この技術は、フェリクロムポジションの発想を基に、通常の塗布層の上に金属コバルトを蒸着させるものでした。蒸着層は超高域専用であり、高域特性を大幅に向上させましたが、製造コストの高さやテープ特性の相性などから1988年末までに生産が終了しました。

この蒸着技術は、後にビデオムービーカメラ用ビデオテープに応用され、ビデオ信号の記録に貢献しました。

フェリクロムポジション用カセットテープ一覧

以下に、主なメーカーのフェリクロムポジション用カセットテープのラインナップと、生産開始年と終了年をまとめます。

ソニー・CBSソニー
Duad（初代）：1973年 - 1978年（ヘマタイト酸化鉄+二酸化クロム）
DUAD（2代目）：1978年 - 1987年（ガンマヘマタイト酸化鉄+コバルト被着系ヘマタイト酸化鉄）
日本コロムビア・DENON
DX5：1978年 - 1983年（初代はヘマタイト酸化鉄+コバルトドープ、2代目はガンマヘマタイト酸化鉄+コバルト被着系ヘマタイト酸化鉄）
アイワ
FeCr：1975年 - 1978年（ソニーのOEM）
ナガオカ・ジュエルトーン
FC：1979年 - 1981年（日本コロムビアのOEM）
3M・Scotch
Classic、MasterIII：ヘマタイト酸化鉄+コバルトドープ
BASF
Ferrochrome、FCR、ProIII：ヘマタイト酸化鉄+二酸化クロム

参考文献

ONTOMO MOOK カセットテープ完全アルバム 僕たちの青春を彩ったカセットテープのすべて - 音楽之友社
FUTABASHA SUPER MOOK 〜ソニー・カセットテープ・マニアックス〜 - 双葉社

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