フェルディナント・シェルナー

フェルディナント・シェルナー：冷酷な元帥の生涯

フェルディナント・シェルナー（1892年6月12日 - 1973年7月2日）は、ドイツ陸軍の軍人であり、最終階級は陸軍元帥でした。彼はその強硬な指揮と冷酷さから、「ヒトラーの最も冷酷な元帥」と評されています。

初期の軍歴

バイエルン王国のミュンヘンで生まれたシェルナーは、アビトゥーア合格後、ローザンヌ大学やグルノーブル大学で哲学や言語学を学びました。第一次世界大戦が勃発すると、軍に志願し、下士官・士官候補生を経て予備役少尉に任官されました。フランス、チロル、セルビア、ルーマニア、北イタリアなど各地を転戦し、1917年にはバイエルン出身の陸軍少尉として唯一のプール・ル・メリット勲章受章者となりました。この大戦で三度重傷を負い、終戦前の1918年に職業軍人への道を選び、中尉に昇進しました。

終戦直後は義勇軍に参加し、1920年に軍に復帰しました。戦間期には、イタリア語に堪能だったため参謀本部の外国軍課（南東ヨーロッパ方面）に勤務し、ドレスデン歩兵学校の教官も務めました。1923年のミュンヘン一揆では、軍管区司令官の副官として鎮圧側に回りました。その後、ナチス親衛隊の準軍隊組織である親衛隊特務部隊を、ドイツ陸軍と共に最前線で戦える野戦軍（武装親衛隊）に育成する上で重要な役割を果たしました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦では、ポーランド侵攻で第98山岳連隊を指揮し、大きな戦果を上げました。新設の第6山岳師団長としてフランス侵攻作戦に参加し、フランス降伏後の1940年8月に少将に昇進しました。バルカン戦線では、同師団を指揮し、先遣隊がアテネのアクロポリスにハーケンクロイツ旗を掲げる功績を上げ、騎士鉄十字章を受章しました。その後、同師団を率いてバルバロッサ作戦に参加し、1942年にはフィンランドの第19山岳兵軍団長に昇格しました。

1943年11月から翌年1月まで第40装甲軍団の指揮を執り、1944年2月にはナチス独自の参謀本部部長に任命され、柏葉付騎士鉄十字章を受章しました。しかし、マルティン・ボルマンと対立し、1ヶ月で辞任しました。3月にはA軍集団司令官（後に南ウクライナ軍集団と改称）に就任しました。クリミア半島が占領されてもセヴァストポリ軍港は保持できると主張していましたが、後にヒトラーに同地からの撤退を説得しました。しかし、この撤退は遅きに失し、クリミア半島守備のドイツ第17軍とルーマニア軍は大損害を被りました。1944年の晩春には、ルーマニアのドニエストル川流域南部での防衛戦で戦果を上げました。A軍集団司令官時代には、脱走兵を即時処刑していたことで知られています。戦後、シェルナーは脱走兵の処刑は、戦線を維持し、ソ連軍の侵攻から民間人を救うために必要な措置であったと正当化しました。

1944年8月には上級大将に昇進し、7月23日には北方軍集団司令官に就任しました。1945年1月には中央軍集団司令官となり、チェコスロバキアからオーデル川上流部分にかけての防衛を担当しました。この職責において、シェルナーは迫りくるソ連軍を避けるために、ズデーテン地方やシレジア地方からのドイツ人住民160万人の西方への疎開を支援しましたが、同時に兵士や国民突撃兵を自殺的な戦闘に送り込みました。

シェルナーは主に東部戦線で指揮を執り、ヴァルター・モーデル元帥らと共に大戦後半の困難な防衛作戦の指揮官として、ヒトラーの最もお気に入りの将軍の一人でした。1945年4月5日に陸軍元帥に昇進し、4月30日には自殺したヒトラーの遺言によって陸軍総司令官に任命されました。シェルナーは、ヒトラーから元帥杖を授与された最後の人物でした。

戦後

1945年5月5日、シェルナーは傘下の兵士の帰還を約束していましたが、5月8日には私服に着替えて民間人に変装し、配下の兵士を置き去りにして、偵察機でオーストリアに逃亡し、山小屋に数日間潜伏した後、アメリカ軍に投降しました。シェルナーは、軍を離れたのは全面降伏によって指揮権を喪失した5月9日の朝であり、フレンスブルク政府から5月12日まで降伏を延期でき、その時までに傘下の兵士を帰還させれば良いと思っていたと主張しました。オーストリアに向かったのは、アルプス国家要塞で指揮を執るつもりだったとも述べています。

戦後、シェルナーは戦犯として逮捕・訴追され、労働刑50年を宣告されましたが、後に12年に減刑され、最終的に1955年に西ドイツへの帰国を許されました。当時、西ドイツは再軍備を目前にしており、ナチスを信奉した旧ドイツ国防軍幹部に対する風当たりが強くなっていました。ドイツ連邦議会は1955年に法改正し、シェルナーらナチスに近い旧軍人に対する恩給を停止しました。この法律は「シェルナー法」と呼ばれました。シェルナーは西ドイツでも逃亡兵を非合法に処刑した罪や敗戦後の敵前逃亡の罪で懲役刑を受け、1963年に釈放されました。当時の大統領ハインリヒ・リュプケによる恩赦により、恩給の一部が回復しました。

シェルナーが1945年に出した、書面による命令を保持せずに前線から離脱した兵士は裁判なしに即決処刑するという命令を出したこと、それにもかかわらず自らは敵前逃亡したこと、陸軍における熱烈なナチズム信奉者であったことから、現在でもその評価は分かれています。

1973年にミュンヘンで死去し、ミッテンヴァルトの墓地に埋葬されました。

参考文献

Peter Steinkamp: Generalfeldmarschall Ferdinand Schörner, in: Gerd R. Ueberschär (Hg.): Hitlers militärische Elite. Bd. 2: Vom Kriegsbeginn bis zum Weltkriegsende, Darmstadt: Wiss. Buchgesellschaft 1998, S. 236–244
イアン・カーショー著、宮下嶺夫訳『ナチ・ドイツの終焉 1944-45』白水社、2021年

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