フォロ・ジュリアーノ

フォロ・ジュリアーノ：カエサルが築いた古代ローマの公共広場

フォロ・ジュリアーノ（ラテン語: Forum Iulium）は、ローマの中心部に位置する古代ローマ時代の公共広場です。日本語では、フォロ・ディ・チェーザレ、またはカエサルのフォルムとも呼ばれます。フォロ・ロマーノの北東に隣接し、古代ローマの政治、経済、宗教の中心地として重要な役割を果たしました。

概要

フォロ・ジュリアーノは、南北約160m、東西約75mの長方形の広場です。その西側はカピトリヌスの丘に接し、東側はフォロ・アウグストゥムに隣接していました。広場は三方を列柱廊で囲まれ、最奥にはユリウス氏族の祖神であるウェヌスを祀るウェヌス・ゲネトリクス神殿が建てられています。フォルム・ロマヌムが手狭になったため、カエサルが公共活動のスペースを拡大しようと計画しました。しかし、土地買収のコストが非常に高く、他の皇帝のフォルムに比べて規模は小さいです。広場にはバシリカのような公共施設は併設されておらず、主な建造物はウェヌス・ゲネトリクス神殿、クリア・ユリア（元老院議事堂）、そしてタベルナ（商店）です。クリア・ユリアが、フォルム・ロマヌムとフォロ・ユリウムを接続していました。

歴史

紀元前1世紀、ローマは急激な人口増加に直面し、既存のフォロ・ロマヌムは公共の集会や活動に対応できなくなっていました。カエサルは、この問題に対処するため、新たな公共スペースの建設を計画しました。当初は、民会用の新しいスペースとフォルム・ロマヌムの拡張を考えていたようです。

紀元前54年から土地の買収が開始され、その費用は6000万セステルティウス（HS）にものぼったとされています。当時の記録によれば、カエサルはファルサルスの戦いの前にウェヌスに神殿を奉献することを誓い、勝利後、紀元前46年に未完成ながらもお披露目しました。しかし、この時には神像すら完成しておらず、カエサルの死後、後継者であるアウグストゥスによって完成しました。このフォルムの建設には、最終的に1億HS以上かかったとも言われており、カエサルの権力と富を象徴する巨大プロジェクトでした。

紀元前54年から49年にかけては、既存の建物の解体や整地、資材の運搬などの準備作業に費やされました。クリア・ホスティリア（旧元老院議事堂）の焼失も、計画に大きな影響を与えたと考えられます。カエサルの死後、新しい議事堂であるクリア・ユリアが建設されました。フォルムの北西部には、バシリカ・アルゲンタリア（銀行のバシリカ）と見なされる場所がありますが、その具体的な目的は不明です。タベルナの大きさは様々で、もしフォロ・ユリウムがフォルム・ロマヌムに代わるものとして計画されたならば、元老院の議事録や公的な用具類を保存したり、元老院議員の非公開の会議に使われたりしていた可能性もあります。

現在の遺跡では、ファサードや仕切り壁はカエサル時代のものと考えられますが、タベルナの上層建築はハドリアヌス時代以降のものであり、クリア・ユリアはディオクレティアヌスの時代に、円柱はアルカディウスとホノリウスの時代に修復されたものです。遺跡の保存状態はあまり良くなく、1930年代に発掘と修復が行われました。

ウェヌス・ゲネトリクス神殿

ウェヌス・ゲネトリクス神殿は、フォロ・ジュリアーノの中心に位置する重要な建造物です。カエサルは、自身の氏族の祖であるウェヌスを祀るためにこの神殿を建てました。神殿は、カストル・ポルックス神殿を参考に建設されたと考えられており、3.5mの高さの演台と、6mの高さのポディウム（基壇）で構成されていました。演台には祭壇と噴水があった可能性が高いです。

神殿は、80年のローマ大火で破壊されましたが、トラヤヌス帝によって113年に再建されました。しかし、283年に再び火災で焼失しました。

まとめ

フォロ・ジュリアーノは、カエサルによって建設が開始され、ローマの公共空間を拡張しようとした意欲的なプロジェクトでした。その歴史、建築、そして周囲の環境は、古代ローマの政治、経済、そして文化を理解する上で非常に重要です。遺跡は現在、ローマを訪れる観光客にとって必見の場所となっています。

脚注

注釈

出典

参考文献

Roger B. Ulrich (1993). “Julius Caesar and the Creation of the Forum Iulium”. American Journal of Archaeology (The University of Chicago Press) 97 (1): 49-80. JSTOR 505839.
スエトニウス 著、国原吉之助 訳『ローマ皇帝伝』 上、岩波書店〈岩波文庫〉、1986年。ISBN 9784003344019。

関連項目

ローマ建築
ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂

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