フラバン-3-オール

フラバン-3-オール類は、特定の骨格を持つフラボノイドの仲間です。このグループには、広く知られているカテキンや、その没食子酸エステルであるカテキンガレートなどが含まれます。

他のフラボノイドとの違い

フラバン-3-オール類は、ケト基を持つフラボノール類（クェルセチン、ルチンなど）とは構造的に区別されます。かつて「バイオフラボノイド」という用語はフラボノールを指すことがありましたが、現在ではより広い範囲のフラボノイド、特にポリマー化したカテキン類など、構造的に多様な物質を漠然と含む用語として使われることがあります。

また、フラバン-3-オール類は、より大きな分子であるプロアントシアニジン類の構成要素でもあります。

構造上の特徴

フラバン-3-オール分子は、二つの不斉炭素（キラル炭素）を持つため、それぞれに四つの異なる立体異性体（ジアステレオマー）が存在します。

代表的なカテキン類

カテキンとエピカテキン: これらは立体異性体（エピマー）の関係にあります。天然では、(+)-カテキンと(−)-エピカテキンが最も一般的な光学異性体として存在します。カテキンの名称は、最初にこの化合物が分離された植物抽出物である「カテキュ」に由来します。
没食子酸エステル: カテキン類の中には、没食子酸が結合したエステル体（カテキンガレート類）があります。茶葉に最も豊富に含まれるカテキンである没食子酸エピガロカテキン (EGCG) は、このグループの代表例です。エピガロカテキンやガロカテキンは、それぞれエピカテキンやカテキンと比べてフェノール性ヒドロキシル基が一つ多い構造を持っています。

主な含有源

フラバン-3-オール類、特にカテキンは、私たちの身の回りの様々な植物性食品に豊富に含まれています。

茶類: チャノキ（Camellia sinensis）由来の緑茶や紅茶などに非常に多く含まれます。
カカオ製品: カカオ豆（Theobroma cacao）から作られるココアやチョコレートにも豊富です。
その他: 果物、野菜、ワインといった一般的な食品や、それ以外の数多くの植物種にも含まれています。

生合成経路

植物体内では、フラボノイドはシンナモイル-CoAを起点とし、マロニル-CoAの分子と結合することで合成されます。この一連の反応は、III型ポリケチド合成酵素と呼ばれる酵素によって行われます。これらの酵素は特定の構造を形成し、最終的に芳香環を持つポリケチドを経て、フラバン-3-オールなどのフラボノイドが生成されます。

健康効果に関する研究

フラバン-3-オール類、特にカテキン類は、ヒトや動物モデルを用いた数多くの研究により、多様な健康効果が示唆されています。

血管・循環器系: 動物モデルでは、動脈硬化症のリスクを低減する可能性が報告されています。また、フラバノール類全体として、動脈の柔軟性維持、小血管の血流改善、血圧低下といった血管機能への良い影響が期待されています。
がん予防: 試験管内の研究では発癌プロセスの抑制効果が観察されています。ヒトにおいても、特定のフラボノイド（カテキンを含む）を含む食事が肺癌の発症を抑制する可能性を示唆する研究（カリフォルニア大学ロサンゼルス校など）も行われています。
抗酸化作用と皮膚保護: 没食子酸エピガロカテキン (EGCG) などは強力な抗酸化物質であり、紫外線による皮膚の損傷や腫瘍形成から皮膚を保護する助けとなる可能性が研究されています。
DNA保護と加齢: 日常的な運動と組み合わせることで、カテキン類が加齢に伴う細胞の変化を遅らせる可能性も示されています。マウスを用いた実験では、カテキン類を与えられたグループで、加齢の兆候が低下し、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの酸化ストレスが軽減され、関連タンパク質の生成に関わる遺伝子発現が増加することが観察されています。
脳機能: 果物、野菜、カカオ、茶に含まれるフラバノール類は、脳機能の向上に寄与すると考えられています。
* その他の効果: 特定の研究者からは、エピカテキンが脳卒中、心不全、がん、糖尿病といった主要な健康問題のリスクを低減する可能性が指摘されており、食品中の必須成分としてビタミンに分類すべきだという提言もなされています（例：ハーバード大学医学部ノーマン・ホレンバーグ教授のパナマ・クナ人に関する研究）。

加工食品に関する注意点

健康効果を期待してカテキン類を摂取する際には、特に加工された食品に注意が必要です。例えば、ダークチョコレートの中には、苦味を取り除く製造過程で有益な化合物が失われたり、健康に影響を与える鉛、脂肪、砂糖、高カロリーといった要素が多く含まれていたりする場合があり、かえって心疾患のリスクを増大させる可能性も指摘されています。

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