フルーツバスケット (漫画)

フルーツバスケット

『フルーツバスケット』は、高屋奈月が白泉社の漫画雑誌『花とゆめ』にて、1998年16号から2006年24号まで連載した全23巻の少女漫画作品です。略称は「フルバ」や「フルバス」などが用いられます。

物語は、不慮の事故で唯一の肉親である母親を亡くし、公園にテントを張って一人で生活していた女子高生、本田透を主人公として展開します。彼女がテントを張った場所が、同級生である草摩由希の一族が所有する広大な敷地内であったことから、透は草摩家の住人である由希とその保護者である草摩紫呉、そして後に合流する草摩夾と共に暮らすことになります。この奇妙な同居生活の中で、透は草摩一族に代々受け継がれる驚くべき秘密を知ってしまいます。それは、彼らが異性に抱きつかれたり、体が弱ったりすると、十二支や猫といった動物に変身してしまうという特異な「呪い」でした。

連載当初は掲載誌で「ホームコメディ」と紹介されましたが、作者自身は単行本内でコメディを意識していなかったと語っています。本作は、透の純粋で優しい心を通して、草摩家の人々が抱える深い心の傷や葛藤、そして「呪い」という形で表現される人間関係の歪みや絆を描き出し、読者の共感を呼びました。その評価は高く、2001年には第25回講談社漫画賞少女部門を受賞。2018年11月時点で全世界累計発行部数は3000万部を突破し、2007年には「最も売れている少女マンガ」としてギネス世界記録に認定されるなど、国内外で絶大な人気を博しました。物語のその後を描いた次世代編『フルーツバスケットanother』も不定期ながら連載されています。

作品の根幹をなす設定は、草摩一族の一部に存在する「十二支の物の怪憑き」という体質です。これは数百年前の「神」と「十二支」たちの間で交わされた契約に由来するとされ、彼らにとっては同時に深い「絆」であり、逃れられない「呪い」でもあります。異性に触れると動物に変身してしまうという制約は、彼らの人間関係や生き方に大きな影を落としています。中でも「猫」の物の怪憑きは十二支の仲間外れとされ、普段は猫に変身するだけですが、数珠が外れると忌まわしい異形の姿になるという悲しい宿命を背負っています。そして、物の怪憑きの魂を統べる存在として「神」がいます。「神」は変身しない人間ですが、十二支たちは本能的に彼/彼女を慕い、逆らうことができません。

草摩家は、十二支の秘密を守り続けてきた歴史ある名家です。強大な財力と高い家格を持ちますが、その内情は古くからのしきたりや派閥争い、当主による支配など、多くの問題を抱えており、それが一族の面々に深い心の傷を与えています。婚姻や居住、進路に至るまで当主の許可が必要とされる閉鎖的な環境です。また、草摩家には美形の人物が多いことでも知られています。

個性豊かな登場人物たちは物語を彩ります。主人公の本田透は、どんな困難にもめげないひたむきさと、相手を分け隔てなく受け入れる優しさを持つ少女です。草摩家の中心人物である草摩由希（子/鼠）は、容姿端麗で学業優秀な学園の王子様的な存在ですが、内面にはコンプレックスを抱えています。草摩夾（猫）は由希とは犬猿の仲で、短気でぶっきらぼうに見えますが、心優しい一面を持ちます。草摩紫呉（戌/犬）は由希と夾の保護者的な立場の小説家で、掴みどころのない言動の裏に冷酷さも覗かせます。草摩家当主の草摩慊人は、十二支にとっての「神」であり絶対的な存在ですが、実は女性であり、複雑な運命に囚われています。他にも、草摩潑春（丑/牛）、草摩紅葉（卯/兎）、草摩はとり（辰/龍）、草摩綾女（巳/蛇）、草摩依鈴（午/馬）、草摩燈路（未/羊）、草摩利律（申/猿）、草摩楽羅（亥/猪）、そして唯一呪いが解けている草摩紅野（酉/鶏）といった十二支の面々が登場し、それぞれが抱える苦悩や透との交流が描かれます。また、透を支える友人である魚谷ありさと花島咲も、作品に欠かせない存在です。

本作は多岐にわたるメディアミックス展開が行われています。テレビアニメはこれまでに二度制作されました。2001年版は全26話で放送されましたが、原作の途中までをアニメオリジナル展開で締めくくりました。一方、2019年から2021年にかけて3シーズンにわたって放送された新シリーズは、スタッフ・キャストを一新し、原作者の高屋奈月が総監修を務め、原作の最後までを描き切りました。この新シリーズをベースにした劇場版『フルーツバスケット -prelude-』（2022年）では、テレビシリーズの総集編に加え、透の両親の前日譚や透と夾の後日譚が新規映像で描かれています。また、2009年からは劇団スタジオライフによる全男性キャストでの舞台化が行われ、2022年以降も新たなキャストで継続的に上演されています。このほか、ドラマCDやリアル謎解きゲームなど、様々な媒体でファンを楽しませています。

『フルーツバスケット』は、ただのファンタジーや恋愛物語ではなく、人間の心の弱さや強さ、家族や友人との関係性の尊さ、そして自分自身を受け入れることの大切さを深く掘り下げた作品として、今なお多くの人々に感動を与え続けています。

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