フロセミド

フロセミド：強力な利尿作用と幅広い臨床応用

フロセミドは、心不全、肝硬変、腎疾患などによって引き起こされる浮腫の治療に用いられる、重要なループ利尿薬です。高血圧の治療にも広く処方されています。白色の結晶性粉末で、水への溶解度は低いのが特徴です。

作用機序

フロセミドは、腎臓のヘンレループ（ヘンレ係蹄）の太い上行脚において、ナトリウム、カリウム、塩化物イオンの再吸収を担うNKCC2輸送体を阻害することで作用します。この作用により、体内の余剰な水分と塩分が尿として排出され、利尿作用を発揮します。経口投与後約1時間、静脈注射後5分以内と、速やかに効果が現れるのが特徴です。効果の持続時間は比較的短く、患者ごとに必要な投与量は異なります。

フロセミドの作用は、炭酸脱水酵素阻害剤やアルドステロン阻害剤とは独立して作用し、腎臓における皮髄浸透勾配を変化させ、自由水のクリアランスを抑制します。ヘンレループでの塩分再吸収能が高いことから、他の利尿薬と比べてアシドーシスによる利尿作用の制限を受けにくいという利点もあります。また、フロセミドはGABA-A受容体にも作用することが知られています。

臨床応用

フロセミドは、様々な疾患の治療に用いられています。

心不全: 心臓の機能低下により体内に水分が貯留する鬱血性心不全の治療に有効です。
肝硬変: 肝臓の機能低下により体内に水分が貯留する肝性浮腫の治療に有効です。
腎疾患: 腎臓の機能低下により体内に水分が貯留する腎性浮腫の治療に有効です。
高血圧: 血圧を下げる効果があり、高血圧の治療に用いられます。
月経前緊張症: 月経前に起こるむくみなどの症状の軽減に効果を示します。
末梢血管障害による浮腫: 末梢血管の障害によるむくみの治療にも用いられます。
尿路結石排出促進: 尿路結石の排出を促進する効果もあります。
ネフローゼ症候群: アルブミンと併用することで、浮腫軽減に効果があります。

副作用

フロセミドの使用に伴う副作用として、起立性低血圧、耳鳴り、光線過敏症などが比較的よくみられます。より重篤な副作用としては、ショック、アナフィラキシー、再生不良性貧血、様々な血液障害、皮膚粘膜眼症候群（Stevens-Johnson症候群）、中毒性表皮壊死融解症（TEN）、難聴、心室性不整脈、間質性腎炎、間質性肺炎などが報告されています。

低カリウム血症のリスクが高いため、強心配糖体との併用には注意が必要です。カリウム補充剤の併用や、カリウム保持性利尿薬の使用が推奨される場合もあります。高尿酸血症を誘発する可能性も指摘されています。聴器毒性については、大量急速静注や腎障害のある患者においてリスクが高まるという報告があります。高血糖も副作用として知られています。

薬物動態

フロセミドは経口または静脈投与後、速やかに吸収されます。血漿タンパク質への結合率が高く、肝臓や腎臓以外への分布は少ないです。血中濃度半減期は短く、主として尿中に排泄されます。腎機能障害のある患者では、用量調整が必要となる場合があります。

薬物相互作用

フロセミドは、他の薬剤との相互作用を示す可能性があります。特に、NSAIDs、抗不整脈薬、抗生物質、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗真菌薬、高血圧治療薬、抗精神病薬、強心配糖体、シクロスポリン、リチウムなどとの併用時には注意が必要です。これらの薬剤との併用により、副作用が増強されたり、薬効が低下したりする可能性があります。

獣医学領域での使用

フロセミドは、獣医学領域でも広く用いられています。特に、競走馬における運動誘発性肺出血の予防・治療に用いられてきましたが、近年では使用規制が強化されています。他の動物種においても、心不全や肺浮腫、腎疾患などの治療に用いられます。

まとめ

フロセミドは、強力で速効性の利尿作用を持つ薬剤ですが、副作用や薬物相互作用に注意が必要です。医師や獣医師の指示に従い、正しく使用することが重要です。

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