プラムボブ作戦

プラムボブ作戦（Operation Plumbbob）

プラムボブ作戦は、1957年5月28日から同年10月7日にかけて、アメリカ合衆国のネバダ核実験場（Nevada Test Site: NTS）で実施された大規模な核実験シリーズです。この作戦は、先行するレッドウィング作戦に続くものであり、後にハードタックI作戦へと引き継がれました。特に、アメリカ合衆国の本土内で行われた核実験としては、その規模と期間において史上最大でした。

背景と目的

本作戦は、6つのシリーズにわたる合計29回の実験から構成されました。特筆すべきは、これらの実験のうち2回は核爆発を伴わない安全性に関するテストであったことです。この広範な作戦には、21に及ぶ様々な研究機関や政府機関が深く関与しました。実施された数多くの実験は、後の大陸間弾道ミサイル（ICBM）や中距離弾道ミサイル（IRBM）用核弾頭の開発に大きく寄与しました。また、防空や対潜水艦作戦で使用される小型核兵器の性能評価も行われました。

さらに、実験では民間および軍用の構造物に対する核爆発の様々な効果を測定するためのテストも43種類実施されました。放射線と生物学的影響に関する調査、そして航空機の構造強度テストも重要な目的の一つでした。塔上での実験としては、アメリカ国内で実施されたものの中で最も高い塔が使用されました（その高さは気球を用いた実験に匹敵します）。また、一つの核実験としては、これまでに例を見ないほど多数の兵士が参加したことでも知られています。

生物学的な影響調査

プラムボブ作戦では、核爆発の生物学的な影響を詳細に調査するため、およそ1,200匹のブタが実験に供されました。中でも「プリシラ」実験では、熱線や放射線などの複合的な影響を調べるために719匹ものブタが使用されました。これらのブタの一部は、爆発の熱線を防御する素材の有効性を検証するために、異なる材質で作られた服を着せられ、高所に設置された檻に入れられました。また、浮遊粒子の影響を調べる目的で、ガラス製のシートの前に置かれた檻の中で実験されたブタもいました。

兵士の参加と訓練

本核実験作戦には、アメリカ空軍、陸軍、海軍、海兵隊から合計でおよそ18,000人の兵士が「デザート・ロックVIIおよびVIII演習」として参加しました。軍の主な目的は、戦術核兵器が使用されるという極めて過酷な状況下において、兵士たちが物理的、心理的にどのように行動し、任務を遂行できるかを知ることにありました。兵士たちは、偶発的な核爆発が発生した場合を想定し、放射性物質や放射性降下物が存在する環境下で実際に作戦行動を行いました。これと並行して、地面の振動や爆風の程度、放出される中性子量に関するデータも収集されました。

核兵器の安全性試験

本作戦における安全性に関する実験は、偶発的に核兵器が爆発する可能性、いわゆる不慮の核爆発リスクを調査し、その影響を抑制するための技術開発を目的としていました。1957年7月26日に行われた安全性試験「パスカルA」は、塞がれていない縦坑内で実施され、これは縦坑を用いた最初の核実験となりました。この実験で得られた貴重なデータは、航空機事故などの際に発生しうる偶発的な核爆発の威力を抑制するための技術に活用されました。

また、1957年9月19日に実施された「レイニア」実験は、完全に塞がれた地下坑道内で行われた最初の核実験となりました。これは、放射性物質が大気中に全く放出されないことを意味します。核出力1.7キロトンであったこの実験は、一般の地震計でもその揺れが世界中で検出されました。レイニア実験は、より大規模で強力な地下核実験を実施するための先駆的なプロトタイプとなった重要な実験です。

放射性降下物と健康への影響

プラムボブ作戦によって、合計58.3メガキュリー（2.16エクサベクレル）もの放射性ヨウ素131が大気中に放出されました。これは、アメリカ合衆国の全一般市民の甲状腺組織が、累計で120メガラドの放射線にさらされたことを意味します。この被曝量は、国内で実施された全ての核実験による一般市民への甲状腺被曝量の約32%に相当します。統計的な推計によると、この放射線被曝は最大で38,000人に甲状腺がんを発生させ、そのうちの約1,900人を死に至らしめる可能性が指摘されています。しかしながら、本作戦による一般市民への長期的な健康影響を直接的に追跡調査したデータは、現在まで存在しません。

一般市民への影響に加え、実験区域に近い場所で作戦行動を行った「スモーキー実験」に参加した3,000人以上の軍人が、比較的高いレベルの放射線に被曝しました。これらの軍人に対する1980年に行われた調査では、彼らの間で白血病の発生率が明らかに高いことが判明しています。

実験における特異な事例

プラムボブ作戦中の興味深いエピソードとして、「パスカル-B」実験が挙げられます。この実験では、地下縦坑の開口部を覆っていた約900キログラムの厚い鋼鉄製の蓋（装甲板の一部）が、核爆発の圧力によって毎秒66キロメートル以上の驚異的な速度で宇宙空間に向けて打ち上げられました。実験考案者の一人であるロバート・R・ブラウンリー博士は、事前に緻密な計算を行い、この特殊な縦坑設計と核爆発の組み合わせが、蓋を地球の脱出速度の最大6倍にまで加速させる可能性を示唆していました。結局、この高速で打ち出された鋼鉄の蓋は発見されませんでした。ブラウンリー博士は、蓋が地球大気圏外に脱出したとは考えておらず、それほどの高速で大気圏を通過する際に発生する断熱圧縮による空力加熱によって気化してしまった可能性が高いと推測しました。事前に計算された速度があまりに驚異的であったため、実験チームはハイスピードカメラで蓋の飛翔を捉えようと試みました。実験後、記録に残っていたのはわずか1コマの映像でしたが、それでも蓋の速度が非常に高かったことを明確に示していました。ブラウンリー博士はこの出来事を「コウモリのように飛び去った」と形容しています。この一件以来、地下坑と核爆発を利用して物体を高速推進させる概念を「サンダーウェル（thunder well）」と俗称するようになりました。

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