プラークラベーン

プラークラベーン（Giant freshwater stingray）

プラークラベーンは、アカエイ科に属する世界最大の淡水エイです。学名はUrogymnus polylepisで、以前はHimantura chaophrayaという学名で呼ばれることもありました。東南アジアやボルネオ島に分布し、大河川や河口に生息しています。過去には南アジアにも広く分布していた可能性があります。

分類と名称

プラークラベーンは、淡水エイとしては珍しいアカエイ科の種です。かつてはアミメオトメエイ属に分類されていましたが、現在ではイバラエイ属に分類されています。1852年にオランダの魚類学者ピーター・ブリーカーによって初めて記載されましたが、その後、長らく見過ごされていました。1990年に改めてHimantura chaophrayaとして記載され、広く使用されましたが、2008年にブリーカーの記載が優先され、学名がUrogymnus polylepisに再変更されました。

英名では、giant freshwater whipray、giant stingray、freshwater whiprayなどと呼ばれています。

オーストラリアに生息する淡水エイは、2008年にUrogymnus dalyensisとして記載されました。ニューギニアの個体群もU. dalyensisであると考えられています。インド産のTrygon fluviatilisは本種と似ており同種である可能性がありますが、遺伝子レベルでは違いがあるため、今後の研究が待たれます。

2012年の系統解析では、本種はイバラエイに最も近縁であり、マングローブホイップレイやチューブマウスホイップレイとグループを形成することが示唆されました。

分布

プラークラベーンは、インドシナ半島とボルネオ島東部に分布しています。インドシナ半島では、メコン川からタイのチエンコーン郡まで、チャオプラヤー川、ナーン川、メークローン川、バーンパコン川、タピ川などの大河川や、ボーラペット湖でも見られました。しかし、ボーラペット湖では現在では絶滅しています。ボルネオ島では、マハカム川やキナバタンガン川などで見られます。キナバタンガン川では比較的多く見られますが、捕獲されることは稀です。ジャワ島は本種の基準標本の産地ですが、近年の調査では記録されていません。

インドのガンジス川やベンガル湾で記録されたTrygon fluviatilisはHimantura fluviatilisである可能性が高いですが、2022年にはミャンマーのカラダン川とマユ川にも生息していることが確認されました。

異なる河川の個体群は、おそらく互いに隔離されていると考えられます。汽水域にも生息しますが、海水域に進出した記録はありません。砂地や泥地を好む底魚です。都市部近くでも見られることがあります。

形態

体盤は薄い楕円形で、横幅がわずかに長く、前方が最も広くなっています。吻は鋭く尖っています。眼は小さく、間隔が広く、後ろには大きな噴水孔があります。鼻孔の間には短い皮褶があります。口は小さく、緩やかなアーチ状で、口底には4～7個の乳頭状突起があります。歯は小さく丸く、石畳のように並んでいます。腹側には5対の鰓孔があります。腹鰭は小さく薄いです。成熟した雄は比較的大きなクラスパーを持っています。

尾は細く円筒形で、体盤の1.8～2.5倍の長さがあり、皮褶はありません。尾の基部近くに鋸歯状の尾棘が1本あります。尾棘は最大38cmにもなり、アカエイ科では最大です。

体盤背面には、眼の前から尾棘まで棘が帯状に並んでおり、体盤の中央には4～6個の大きな棘が正中線上に並んでいます。その他の部分は小さな皮歯で覆われています。尾は尾棘より先が鋭い棘で覆われています。背面は灰褐色で、縁に向かって黄色や桃色がかります。生時には暗褐色の粘液で覆われています。腹面は白色で、胸鰭と腹鰭の後縁に幅広の暗色帯があります。尾は尾棘より先が黒色です。

体盤幅は少なくとも1.9m、全長は5.0mに達し、体盤幅5m、全長10mになる可能性もあります。メコン川とチャオプラヤー川では体重500～600kgの個体が報告されていますが、確証はありません。1,500～2,000kgになる可能性もあり、そうなれば世界最大の淡水魚となります。

2022年には、カンボジアで体盤幅2.2m、全長3.98m、体重300kgの個体が捕獲され、世界最重量の淡水魚として記録されました。

生態

プラークラベーンは、貝類、甲殻類、軟体動物などの無脊椎動物や小魚を捕食します。ロレンチーニ器官を用いて獲物の生体電位を感知します。川岸のミミズを食べる姿も目撃されています。

卵胎生であり、妊娠期間が長いのが特徴です。胎仔は子宮内で卵黄を消費した後、子宮ミルクで栄養を与えられます。産仔数は1～4で、生まれたばかりの仔エイは体盤幅が約30cmです。妊娠中の雌は河口でよく見られ、出産場所となっている可能性があります。雄は体盤幅1.1m程度で性成熟します。その他の生活史の詳細は不明です。寿命は40年以上と予想されています。

本種には、複数の寄生虫が確認されています。

人間との関係

プラークラベーンは攻撃的ではありませんが、尾棘には毒性のある粘液があり、骨も貫通する危険性があります。延縄漁で混獲されることがあり、刺し網や罠でも稀に捕獲されます。捕獲は難しく、仕掛けにかかると泥に潜ったり、ボートを引っ張ったりすることがあります。

肉と軟骨が食用にされ、大きな個体はカットされて販売されます。食用にされない場合でも、漁師によって殺されたり、傷つけられたりすることがあります。皮は靴などに利用されることもあります。

メークローン川やバーンパコン川では、スポーツフィッシングや水族館での展示、アクアリウムでの飼育のため、漁獲されることが増えています。しかし、キャッチアンドリリースはあまり行われておらず、放流後の生存率は不明です。飼育も難しく、水槽内では長生きしないことが多いです。

乱獲や生息地の破壊が、プラークラベーンの個体数減少の主な原因です。森林伐採や土地開発、河川の堰き止めによって生息地が分断され、遺伝的多様性が失われ、個体群が絶滅するリスクが高まっています。本種は繁殖率が低いため、これらの圧力に弱いと考えられます。

タイ中部とカンボジアでは、過去20～30年で個体数が30～50％減少しており、95％減少したと推定される場所もあります。カンボジアで漁獲される個体の平均体重も、1980年の23.2kgから2006年には6.9kgに減少しています。

2016年にはタイのメコン川に産業排水が流れ込み、本種を含む多くの魚類が大量死しました。

国際自然保護連合（IUCN）は、本種を絶滅危惧種に指定しており、タイでは近絶滅種に分類されています。タイ政府は1990年代に、飼育繁殖プログラムを開始しましたが、1996年に中止されました。

日本では、板橋区立熱帯環境植物館やアクア・トトぎふで飼育されています。

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