プレブス民会

プレブス民会（Concilium Plebis）とは

プレブス民会（ラテン語: Concilium Plebis）は、古代ローマにおいて平民（プレブス）によって構成された民会です。日本語では「平民会」とも訳されます。この民会は、貴族（パトリキ）と平民の間の政治的な闘争の中で生まれ、ローマ共和政の発展において重要な役割を果たしました。

設立までの経緯

紀元前5世紀、ローマ社会は貴族と平民の対立が激化していました。紀元前473年、護民官ゲヌキウスが前年の執政官を弾劾しようとした際、不審な死を遂げる事件が発生しました。この事件に怒った平民たちは、護民官の身体不可侵が侵害されたとして、従来の制度に不満を募らせました。

こうした状況の中、上訴（プロウォカティオ）という制度を利用して、執政官の判決に不服を申し立てる動きが起こりました。この上訴は、民会で再審査を行う制度であり、平民の権利を守るための重要な手段でした。貴族側も、平民との対立を避けるため、一旦は対決を回避する決議をしました。

翌紀元前472年、上訴を行ったウォレロ・プブリリウスが護民官に選出されました。彼は、護民官の選出をトリブス民会で行うという法（Lex Publilia Voleronis de plebis magistratibus）を提案しました。それまで護民官の選出は、貴族がクリエンテス（被保護民）を利用して、自分たちに都合の良い候補を選出していたとされています。この法案によって、平民は自らの代表を直接選出することができるようになり、プレブス民会の基盤が確立されました。このトリブス民会が、平民のみで構成されるプレブス民会であると考えられています。

実情

プレブス民会は設立後も、土地分配法などを巡って貴族との闘争を続けました。紀元前416年頃には、クラウディウス氏族が護民官の拒否権を利用してプレブス民会の決議を覆すなど、貴族による妨害も多くありました。しかし、次第にプレブス民会は政治的な影響力を増していきます。

紀元前4世紀中頃、リキニウス・セクスティウス法が成立すると、元老院の勧告を受けて護民官が法案をプレブス民会で決議することが見られるようになりました。また、平民の中から新たに政治に関わる層（ノビレス）が形成されるようになり、紀元前300年にはオグルニウス法によって平民にも神職が解放されました。しかし、ノビレスとなった護民官は、自らの利害のためにプレブス民会を利用するようになり、平民全体の利益を代表する存在ではなくなっていきました。

元々プレブス民会の決議は、元老院の承認が必要でした。しかし、紀元前339年にクィントゥス・プブリリウス・ピロの法（Lex Publilia Philonis de patrum auctoritate）が成立すると、プレブス民会の決議は全ローマ市民に効力を持つようになりました。さらに、ホルテンシウス法が成立すると、プレブス民会の決議は元老院の承認なしに法として認められるようになり、プレブス民会はローマの立法機関として重要な地位を確立しました。

このホルテンシウス法を境に、従来ケントゥリア民会で行われていた立法が、より票決しやすいプレブス民会で行われるようになっていきました。

プレブス民会の投票方法

プレブス民会の投票は、個人単位ではなく、トリブス（部族）ごとに一票でした。トリブス内での多数決によってトリブス票が決定されました。このシステムは、トリブス民会と同じです。

まとめ

プレブス民会は、平民の権利を拡大し、ローマ共和政の発展に大きく貢献しました。設立当初は貴族との対立の中で生まれた民会でしたが、徐々にその影響力を増し、最終的には元老院と同等の権限を持つ立法機関となりました。しかし、平民の中から新たに生まれたノビレスが、自らの利益のためにプレブス民会を利用するようになったことも、この民会の歴史における重要な一面です。

参考文献

Giovanni Rotondi (1912). Leges publicae populi romani. Società Editrice Libraria
ティトゥス・リウィウス著、岩谷智訳『ローマ建国以来の歴史 1』京都大学学術出版会、2008年。
安井萌『岩手大学文化論叢巻6, アウクトリタス・パトルム改革小考』岩手大学教育学部社会科教育科、2004年。
原田俊彦『早稲田法学巻67 号2, Liviusにおけるホルテンシウス法以前のplebs集会の決定』早稲田大学法学会、1992年。
原田俊彦『ローマ共和政初期立法史論』敬文堂、2002年。ISBN 4767001072。
砂田徹『共和政ローマの内乱とイタリア統合退役兵植民への地方都市の対応』北海道大学出版会、2018年。

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