ヘキサン

ヘキサン：性質と用途、安全性に関する詳細

ヘキサンは、炭素6個からなる直鎖状のアルカンである有機溶媒です。常温では無色透明の液体で、灯油に似た特有の臭気を持ちます。水にはほとんど溶けず、ガソリンやベンジンの主要成分として知られています。

ヘキサンは、その構造異性体であるイソヘキサン（2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタンなど）と区別するために、ノルマルヘキサン（n-ヘキサン）と呼ばれることもあります。また、ヘキサンという名称は、これらの異性体を含む炭素数6のアルカン類全体を指す場合もあります。

ヘキサンは600～700℃の高温下で熱分解し、水素、メタン、エチレンなどのガスを生成します。

用途

ヘキサンは、極性物質を溶かしにくいという性質を持つため、油脂の洗浄や抽出に広く利用されます。代表的な例として、大豆油の製造工程があります。大豆を破砕した後、ヘキサンを用いて油脂分を抽出し、大豆油を製造する溶媒抽出法が工業的に用いられています。

ヘキサンは毒性を持つものの、沸点が約69℃と比較的低いため、加熱することで容易に除去できます。大豆油製造工程において、ヘキサンで油脂分を除去した後の大豆（脱脂加工大豆）は、醤油の醸造や家畜の飼料などに再利用されます。このため、ヘキサンは食品添加物として扱われる場合もありますが、最終製品には残らない加工助剤であり、表示はされません。

一般消費者向けには、イソヘキサンを主成分とする「ブレーキクリーナー」や「パーツクリーナー」といったスプレー製品がホームセンターなどで販売されています。これらの製品では、イソヘキサンの高い溶解力を高圧ガス噴射によってさらに高めることで、油脂や金属粉などの汚れを効率的に除去します。自動車整備の用途だけでなく、機械や部品のグリスや油汚れの除去にも用いられますが、プラスチックやゴムを溶解してしまう可能性がある点には注意が必要です。

安全性

ヘキサンは引火点が-22℃と非常に低いため、火災の危険性が高い引火性液体です。空気中での爆発限界濃度は1.1～7.5vol%と幅広く、使用時には十分な換気が不可欠です。日本では消防法により危険物第四類（第一石油類、危険等級II、非水溶性）に指定されています。

また、ヘキサン、特にノルマルヘキサンは、慢性的な毒性を示すことが知られています。体内で代謝された際に生成される2,5-ヘキサンジオンという物質が末梢神経を障害し、多発性神経障害（歩行困難など）を引き起こす可能性があります。急性毒性としては、500ppm以上の高濃度ヘキサンに曝露された場合、頭痛や軽度の麻酔作用が現れることがあります。

ヘキサンを取り扱う際は、換気、防護服の着用、適切な廃棄処理など、安全対策を十分に講じる必要があります。

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