ベグ・アルスラン

ベグ・アルスラン（? - 1479年）は、15世紀後半に北元で活躍した部族長の一人です。モンゴル語の発音からベケリスンとも呼ばれます。メクリン部出身で、当初はトゥルファン方面で活動していましたが、後にモンゴリアへ移りヨンシエブ部を率い、勢力を拡大しました。

トゥルファンからモンゴリアへ

1459年頃から史料に登場するベグ・アルスランは、当初、トゥルファン周辺で300〜400人の部下を率いて略奪を行っていました。その活動は、モグーリスタンから明朝へ派遣される使節をも苦しめるほどでした。その後、コムル（哈密）方面に移住し、バルス・クル（現在のバルクル・カザフ自治県）を拠点として、明朝の辺境にも侵攻するようになります。

1469年から1470年にかけて、モンゴリアで最大の勢力であったモーリハイが殺害されると、ベグ・アルスランは東へ勢力を拡大し、オルドス地方に進出しました。そこで、ボルフ・ジノン（後のダヤン・ハーンの父）、マンドゥールン、オロチュらと協力し、楡林方面を度々侵略しました。

オルドスを巡る争い

しかし、1471年にはボルフ・ジノンと組んでオロチュをオルドスから排除しようと試み、翌1472年までオロチュの勢力と争い、最終的にオルドスを支配下に置きました。この頃、ベグ・アルスランはオロチュと明朝という二つの敵を抱えながらも、黄河が凍結すると、ヨンシエブの牧地であるアラシャー方面を往来していました。

マンドゥールン・ハーンの擁立

オロチュを放逐し、オルドスを支配下に置いたベグ・アルスランは、ボルフ・ジノンをハーンに擁立しようとしましたが、ボルフ・ジノンはこれを辞退し、代わりにその祖父の弟であるマンドゥールンにハーンの座を譲りました。そのため、ベグ・アルスランは1475年にマンドゥールンをハーンに擁立し、自身の娘であるイェケ・ハバルト中宮をそのハトン（皇后）として、実権を掌握しました。またこの頃にはウリヤンハイ三衛に進出してこれを統制下に置いていますが、これによって困窮した三衛は明朝に馬市の開設を請願したり、辺境に逃れる者も現れる状況でした。

凋落と最期

新たなハーンが擁立されてしばらくの間は、マンドゥールン、ボルフ、ベグ・アルスランの三人が協力してモンゴルの復興に尽力していました。しかし、ハリューチンのホンホラ、ヨンシエブのイスマイルらがハーンにボルフのことを讒言したために両者の仲は決裂し、1476年頃にマンドゥールン・ハーンとベグ・アルスランは協力してボルフを攻め、その領民と家畜を奪い取りました。

翌1477年には、マンドゥールンに代わって自らがハーンになろうとしましたが、人々の反発を恐れて、代わりにモーリハイの子オチライを擁立してマンドゥールンを殺害しようと企てました。しかし、この計画を察知したマンドゥールンがオチライを引き渡すようベグ・アルスランに求めたことがきっかけとなり、両者の間に抗争が勃発し、最終的にマンドゥールンは敗北し、1479年に亡くなりました。

しかし、この弑逆に反発したモンゴルジン（トゥメト）部のトローゲンらが、ベグ・アルスランの「族弟」であるイスマイルと組んでベグ・アルスランを殺害し、その勢力はイスマイルに引き継がれることとなりました。

ベグ・アルスランは、北元の混乱期において、その政治手腕と軍事力によって一時的に大きな勢力を築き上げましたが、最終的には内部抗争によって命を落としました。彼の生涯は、当時のモンゴル社会の複雑な勢力争いを物語るものとして、歴史に刻まれています。

関連項目

ヨンシエブ
北元（韃靼）
オイラト（瓦剌）
ウリヤンハイ三衛（兀良哈）

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