ペトロによる福音書

『ペトロによる福音書』の概要と意義

『ペトロによる福音書』は、キリスト教の正典には含まれていない外典福音書の一つです。この福音書は、3世紀の教父による文書で言及されていますが、現時点ではその全容について詳しいことは分かっていません。19世紀末、エジプトで発見されたパピルスに、その一部が見つかり、その内容はイエスの受難に関するものであると考えられています。この部分は、主にイエスの裁判、磔刑、そして復活の様子について描写されています。

発見された写本の特徴

発見された写本は8世紀から12世紀にかけてのものと推測され、1892年にその内容が刊行されました。また、田川建三氏による日本語訳も1997年に出版されています。この写本は、イエスの受難についての記録が主体で、特に裁判の最後の部分、磔刑、埋葬、復活の場面が含まれています。ただし、復活の場面は、ガリラヤ湖で復活したイエスがペトロたちの前に姿を現そうとするところで途切れています。

イエスの受難の描写

『ペトロによる福音書』では、イエスの裁判にピラトやヘロデが関わっています。この点は正典福音書でも言及されていますが、詳細には違いがあります。正典では、イエスはさまざまな場所に連行されますが、ヘロデの役割は『ルカによる福音書』にのみ見られるもので、他の書にはない記載がなされています。また、ピラトは直前に手を洗うという行動を取り、最終的な判断はヘロデに任せるという異なる展開が見受けられます。

磔刑と復活の記述

イエスを十字架に遊びつけるのは民衆であるという記述があり、正典福音書ではローマ兵士が行うとされています。このように、描写の違いが存在します。降架の場面においても、恐れた民衆がイエスを十字架から下ろすとされています。また、埋葬に関しては『マルコ』など正典福音書と同様にアリマタヤのヨセフが埋葬することが記されています。

復活については、天使が姿を現す場面の最初の目撃者が墓の番をしていた兵士やユダヤの長老であり、女性たちがその後に空の墓を発見するという流れが描かれています。興味深いことに、復活が起こる際には十字架が一緒に出てくる描写があり、この点は正典福音書にはない独自の特徴です。

意義と影響

この『ペトロによる福音書』は、外典であるナグ・ハマディ写本の『トマスによる福音書』とは異なり、正典福音書との重複が多数見られるため、研究者によっては他の4つの福音書と関連して書かれたのではないかとも考えられています。しかし、1982年にはロン・カメロンらによって、独立した資料としての「受難物語」をもとに書かれた可能性が提唱されました。このことは、福音書の資料仮説に新たな展開をもたらし、イエスの死に対するローマ帝国やユダヤ教の責任論について新たな理解の手助けとなるかもしれません。

『ペトロによる福音書』は、キリスト教における初期の宗教的議論や信仰の形成において、重要な資料とされています。

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