ペリクリュメノス

ギリシア神話において、ペリクリュメノス（古希: Περικλύμενος, Periklymenos）という名は、複数の異なる人物に用いられています。この名は「広く名高い者」を意味すると考えられています。主な人物として、海神ネーレウスの息子、大海の神ポセイドーンの息子、そしてオデュッセウスの妻ペーネロペーに言い寄った求婚者の一人が知られています。

ネーレウスの息子

ピュロス王ネーレウスとクローリスの間に生まれた息子の一人です。彼はアルゴー船探検隊の一員としても知られています。ネーレウスとクローリスの間には12人の息子がおり、アポロドーロスによれば、タウロス、アステリオス、ピュラーオーン、デーイマコス、エウリュビオス、エピラーオス、プラシオス、エウリュメネース、エウアゴラース、アラストール、そして後にピュロス王位を継ぐネストールがその兄弟にあたります。彼らにはペーローという姉妹もいました。また、ヒュギーヌスは、ペリクリュメノスが同じくアルゴナウタイに参加したとされるエルギーノスの父であると記しています。

このペリクリュメノスは、祖父にあたる海神ポセイドーンから特別な能力を授かっていました。それは、あらゆる動物や木に変身することができるという驚異的な力です。後に英雄ヘーラクレースがピュロスを攻撃した際、ペリクリュメノスはこの能力を駆使して迎え撃ちました。彼はライオン、ヘビ、アリ、ハエ、ミツバチ、そしてワシへと姿を変えながら奮戦しましたが、ヘーラクレースによって他の兄弟たちと共に討たれてしまったと伝えられています。ただし、初期の伝説の中には、彼がワシに変身して空へと飛び去ったため、殺されずに済んだとする異説も存在します。ヘーラクレースによるピュロス攻撃の際、ネーレウスの息子たちの中で生き残ったのは、当時ゲレーニア地方に滞在していたネストールただ一人であったと語られています。

ポセイドーンの息子

ヒュギーヌスの伝えるところでは、ペリクリュメノスはポセイドーンとアステュパライアの子であり、アンカイオスの兄弟であるとされます。この人物は、古代ギリシアの有名な戦いである「テーバイ攻めの七将」において、テーバイ側の守将として登場します。エウリーピデースの悲劇『フェニキアの女たち』では、彼はテーバイの城壁の上から巨石を投げつけ、七将の一人であるパルテノパイオスを打ち殺したと描写されています。また、アポロドーロスの記述によると、七将の一人であるアムピアラーオスが戦場から逃亡を図った際、ペリクリュメノスがこれを追撃し、背後から攻撃しようとしました。しかし、そのまさにその時、大神ゼウスが雷霆を投じ、地面に巨大な裂け目を生じさせました。アムピアラーオスは、その乗っていた戦車もろとも御者と共に、この裂け目に飲み込まれて姿を消しました。

ペーネロペーの求婚者

ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場する、イタケーの王オデュッセウスの貞淑な妻ペーネロペーに言い寄った多数の求婚者の中にも、ペリクリュメノスという名の人物がいました。アポロドーロスによれば、彼はザキュントス島からやってきた44人の求婚者の一人として名を挙げられています。トロイア戦争から故郷イタケーに帰還したオデュッセウスは、自らの館を占拠し、財産を浪費していたこれらの求婚者たちを、一人残らず射殺しました。ペリクリュメノスもまた、この際にオデュッセウスの手によって最期を迎えた求婚者の一人であったと伝えられています。

このように、ペリクリュメノスという名は、ギリシア神話の異なる物語や家系において、複数の人物に使用されていることがわかります。それぞれのペリクリュメノスは、独特の能力や重要な役割を担って神話世界に登場しています。

参考文献:

アポロドーロス『ギリシア神話』
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』
エウリーピデース『フェニキアの女たち』（『ギリシア悲劇 IV』所収）
ロバート・グレーヴス『ギリシア神話』
カール・ケレーニイ『ギリシアの神話』
R・L・グリーン『ギリシア神話　テーバイ物語』
* B.エヴスリン『ギリシア神話小事典』

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