ボグド・ハーン政権

大モンゴル国とは

大モンゴル国（モンゴル語：ᠣᠯᠠᠨ᠎ᠠᠡᠷᠭᠦᠭᠳᠡᠭᠰᠡᠨᠮᠣᠩᠭᠣᠯᠤᠯᠤᠰ, Их Монгол улс）は、20世紀初頭、清朝の衰退と列強の進出という激動の時代に、モンゴルが独立を求めて誕生した政権です。1911年から1924年まで、断続的にモンゴルを支配しました。国号は「大モンゴル国」と称し、活仏ジェプツンダンバ・ホトクト8世（ボグド・ハーン）を皇帝（ハーン）として戴く君主国でした。

歴史的背景

20世紀に入り、欧米列強の植民地主義が勢いを増す中、清朝は著しく衰退していました。かねてより清の統治に不満を抱いていた外モンゴルの王侯たちは、清からの分離独立を模索していました。1911年10月、辛亥革命によって清の実効支配が急速に弱まると、外モンゴルのハルハ地方の王侯たちは、ロシア帝国の力を借りて清からの独立を決意しました。同年12月には、モンゴル最高の活仏であるジェプツンダンバ・ホトクト8世を、清朝皇帝に代わる君主としてボグド・ハーンに推戴する儀式が執り行われました。

ボグド・ハーン 政権の成立と展開

こうして成立したボグド・ハーン政権は、1913年に、同じく清朝からの独立運動を展開していたチベットとの間で相互承認条約を締結しました。政権の統治機構は清朝のものをほぼ引き継ぎ、迅速に政府を組織しました。内モンゴルでは、多くの王侯が1912年にボグド・ハーンに帰服したため、南部境域安撫大臣を設置し、1913年1月にはモンゴル軍を派遣して、一時的にその大部分を制圧しました。しかし、政権の後ろ盾であったロシア帝国が、中華民国北京政府との関係悪化を懸念し、モンゴル軍の内モンゴルからの撤退を要求したため、ボグド・ハーン政権は国土統一を目前にして撤退を余儀なくされました。

1915年、キャフタ条約によって、中国の宗主権下での外モンゴルの自治が承認されました。内モンゴルでも独立を目指す動きが見られましたが、内モンゴルの大半が漢民族の居住地となっていたため、中国は内モンゴルを手放そうとしませんでした。また、漢民族が主体の内モンゴルを併合することで政権の主導権を奪われることを恐れたモンゴル人の思惑もあり、内外モンゴルの合併は実現しませんでした。

政権の崩壊と復活

1917年、ロシア革命が勃発し、外モンゴルの後ろ盾であったロシア帝国が崩壊したため、首相のトグス・オチリン・ナムナンスレンは中国からの防衛を要請するために赤軍と接触を試みましたが失敗しました。1919年には中国軍が侵攻し、モンゴル人国家は一時的に崩壊し、外モンゴルは中華民国の統治下に入りました。しかし、1920年には、赤軍との内戦を行っていたウンゲルン率いる白軍がモンゴルに侵入して中国軍を駆逐し、ボグド・ハーン政権を復活させました。

社会主義革命とモンゴル人民共和国の成立

その後、ウンゲルンの残虐な行動に民心が離反していく中、民族主義者、社会主義者たちはモンゴル人民党（後のモンゴル人民革命党）を結成し、独立国家樹立のためにロシア帝国の後継国家であるロシア・ソビエト連邦社会主義共和国に援助を求めました。これに応じた赤軍および極東共和国軍はモンゴルに介入して白軍を駆逐し、1921年7月、ジェプツンダンバ・ホトクト8世を君主として戴くモンゴル人民政府が樹立されました。この革命にはナヴァーンネレンといったモンゴル王侯も賛同しました。新生モンゴルは立憲君主国として出発し、ソビエト連邦の強い影響下で国家運営が行われました。

しかし、1924年にジェプツンダンバ・ホトクト8世が死去すると、モンゴル人民政府は君主制を廃止し、政治体制を人民共和国へと変更してモンゴル人民共和国が成立しました。ソビエト連邦に次ぐ世界で2番目の社会主義国となったモンゴルは、その後ソビエト連邦と歩調を合わせ、その衛星国となりました。

政府機構

モンゴル人は2世紀にわたる清の統治を経て独立を回復し、チベット仏教の神権政府を採用しました。内務、外務、軍務、財務、法務の5省を設置しました。1912年7月には首相職が設置され、モンゴル王公トグス・オチリン・ナムナンスレンが任命されました。

ボグド・ハーン政権は、ハルハ4部、ホブド参賛大臣の管轄下オイラト諸部、ダリガンガ牧場を支配しました。しかし、モンゴル政府による内モンゴルとその他の地域の統一計画は、中華民国（袁世凱政権）とロシア帝国の反対を受けました。1915年に中国、ロシア、モンゴルの間で締結された条約により、ボグド・ハーン政権の統治地域は外モンゴルに限定されました。

1921年の革命後、封建領主（外藩）と仏教勢力は徐々に排除され、共産主義者が率いるモンゴル政府が樹立しました。1921年11月5日には、ロシア・モンゴル友好条約が締結されました。その後、ロシアとモンゴルは正式に国交を樹立し、モンゴルは極東におけるソ連の重要な同盟国となりました。

まとめ

大モンゴル国は、激動の時代にモンゴル人が独立を求めて立ち上がった象徴的な存在でした。その歴史は、列強の思惑や社会主義革命など、複雑な国際情勢の中で翻弄されたモンゴルの苦難の歴史を物語っています。

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