ボスニア・ヘルツェゴビナ・ディナール

ボスニア・ヘルツェゴビナ・ディナールは、1992年7月から1998年7月22日まで、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国およびボスニア・ヘルツェゴビナ連邦で使用されていた法定通貨です。

概要

1992年3月、ボスニア・ヘルツェゴビナはユーゴスラビアからの独立を宣言し、同年7月には独自の通貨としてボスニア・ヘルツェゴビナ・ディナールを発行しました。これは、それまで使用されていたユーゴスラビア・ディナールに代わるもので、交換比率は1ボスニア・ヘルツェゴビナ・ディナールが10ユーゴスラビア・ディナールでした。

しかし、独立やボシュニャク人による統治に反発したセルビア人とクロアチア人は、それぞれスルプスカ共和国とヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共和国を樹立し、ボスニア・ヘルツェゴビナからの分離を試みました。この対立は大規模な戦闘を伴うボスニア・ヘルツェゴビナ紛争へと発展し、地域によって異なる通貨が使用されるという混乱を招きました。セルビア人支配地域ではユーゴスラビア・ディナールやスルプスカ共和国・ディナールが、クロアチア人支配地域ではクロアチア・ディナールが法定通貨として採用されたため、ボスニア・ヘルツェゴビナ・ディナールは限られた地域でのみ流通しました。さらに、ユーゴスラビア軍による首都サラエヴォの包囲戦などにより経済が深刻な打撃を受け、通貨の価値を維持することが困難になり、急速なインフレーションが発生しました。

1994年8月15日には、1ディナール＝10,000旧ディナールのデノミネーションが実施されました。この新通貨は1ドイツマルク＝100ディナールでペッグされ、インフレーションから脱却することができました。しかし、紛争終結後も国内ではセルビア人支配地域でノヴィ・ディナール、クロアチア人支配地域でクーナ、そして全国でドイツマルクが並行して流通するという、事実上4種類の通貨が混在する状態がしばらく続きました。

この状況を改善するために、1998年7月22日に兌換マルクが導入されました。兌換マルクはドイツマルクとのペッグと無条件での交換が保証され、ディナールは1兌換マルク＝100ディナールの比率で交換され、その役割を終えました。

紙幣

発行当初は、500および1,000ユーゴスラビア・ディナール紙幣の透かし部分に加刷を施したものが使用されました。その後、独自の様式を持つ10、25、50、100、500、1,000ディナール紙幣が発行されました。10、50、1,000ディナール紙幣の裏面にはモスタルにあるスタリ・モストが、25、100、500ディナール紙幣の裏面には共同統治国時代の国章（フルヴァティニッチ家の紋章に由来）が描かれていました。

急速なインフレーションに対応するため、ボスニア・ヘルツェゴビナの各地方都市は紙幣よりも高額面のバウチャーを独自に発行しました。例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナ国立銀行がゼニツァで発行した5,000および10,000ディナール券や、サラエヴォで発行した10から100万ディナール券などがあります。中には、額面がドイツマルク（DM）で表記された兌換（を謳った）バウチャーや、トラヴニクで既存のボスニア・ヘルツェゴビナ・ディナール紙幣の額面の末尾に「000」を加刷したものもありました。しかし、これらのバウチャーの多くは粗雑な作りで偽造が容易だったため、大量の偽造品が流通しました。また、ボシュニャク人の市民は基軸通貨であるドイツマルクをディナールの代わりに使い始めたため、インフレーションをさらに加速させる要因となりました。

1994年8月15日のデノミネーションにより、1、5、10、20、50、100、500、1,000ディナールの新しい紙幣が発行されました。これらの紙幣は旧紙幣のデザインを継承しつつ、小型化され、裏面の国章が1992年のものに更新されました。さらに、紫外線発光インキやマイクロ文字、チェッカー状の透かしなど、偽造防止技術が導入されました。

注釈

特筆すべき注釈はありません。

脚注

この項目に脚注はありません。

関連項目

兌換マルク
ボスニア・ヘルツェゴビナの歴史
* ボスニア・ヘルツェゴビナの経済

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