ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍

ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍（ARBiH）とは

ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍（ボスニア語: Armija Republike Bosne i Hercegovine, ARBiH）は、1992年にボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の最中に創設された軍隊です。紛争終結後の1995年、デイトン合意に基づきボスニア・ヘルツェゴビナ連邦軍に再編されました。さらに2005年には、スルプスカ共和国軍（VRS）と統合され、現在のボスニア・ヘルツェゴビナ軍として再編されています。

歴史

創設の背景

1992年4月15日、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の激化の中、ARBiHは産声を上げました。創設当初は、愛国同盟（PL）やボスニア・ヘルツェゴビナ共和国領土防衛軍（TORBiH）といった組織が中心となり、その他「緑ベレー帽」や「コクチョウ」などの部隊も編成されました。また、犯罪組織や警察、旧ユーゴスラビア人民軍の兵士なども非正規戦力として加わっていました。

しかし、ARBiHは劣悪な状況下でのスタートを余儀なくされ、武器の供給は極めて限られていました。特に戦車などの重火器の不足は深刻でした。初代司令官にはセフェル・ハリロヴィッチが就任しました。

1992年：サラエヴォ包囲

1992年当時、ボスニア・ヘルツェゴビナの70%はユーゴスラビア人民軍（JNA）の支配下にあり、セルビア人勢力であるスルプスカ共和国軍（VRS）がその人員と兵器を引き継ぎ、圧倒的な優位を誇っていました。首都サラエヴォは包囲され、ARBiHは軽武装のまま防衛を強いられました。サラエヴォの町とそれを守る軍団は、セルビア人勢力によって完全に包囲され、補給は困難を極めました。

1993年-1994年：クロアチア人勢力との衝突

1993年になると、セルビア人勢力との戦線に大きな変化は見られませんでしたが、クロアチア人勢力との戦闘が激化しました。特に中央ボスニアやヘルツェゴビナ地方、モスタル周辺地域では激しい戦闘が繰り広げられました。

背景には、セルビアとクロアチアの首脳がボスニア・ヘルツェゴビナの分割を画策したカラジョルジェヴォ合意がありました。クロアチア防衛評議会（HVO）は、クロアチア本国からの支援とセルビア人勢力からの物資供給を受け、ボシュニャク人に対する民族浄化を進めました。ARBiHは、セルビア人とクロアチア人勢力との二正面作戦を強いられ、苦戦を強いられました。

アメリカ合衆国の調停によりワシントン合意が成立すると、クロアチア人勢力とボスニア政府は協力し、セルビア人勢力との戦いに向かうことになりました。

1995年：和平合意へ

1995年、セルビア人勢力はスレブレニツァやジェパを制圧し、スレブレニツァの虐殺といった凄惨な事件を引き起こしました。しかし、同年後半になると、ARBiHとHVOは攻勢に転じ、クロアチア共和国軍やNATOの支援も得て、セルビア人勢力に対する一連の作戦を展開しました。これにより、西部ボスニアの大部分を制圧し、セルビア人勢力の首都であるバニャ・ルカに迫りました。

最終的に、デイトン和平合意が締結され、紛争は終結しました。

組織

ARBiHは軍団に分かれ、各軍団が特定の領域の防衛を担当しました。1993年には、重火器の不足から、ほとんどの旅団が山岳部隊に改名されました。これは、ボスニア・ヘルツェゴビナの地形が、機甲戦力よりも軽武装の山岳戦力に適していたためでもあります。

装備

ARBiHは様々な武器を使用していました。鹵獲品や密輸品も多く、以下はその一例です。

拳銃: ツァスタバ CZ99, トカレフ TT
短機関銃: トンプソン, H&K MP5A3, Vz.61 スコーピオン
小銃: ツァスタバ M70, AK-47, H&K HK33, M16A2
機関銃: グロスフス MG42, ツァスタバ M53, M60, ブローニング M2
対戦車兵器: M79 Osa, RPG-7, 9M14 マリュートカ
戦車: M-84, T-55, T-34

この他にも、様々な火砲や装甲車両、航空機などが使用されました。

まとめ

ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍（ARBiH）は、紛争という困難な状況下で誕生し、幾多の苦難を乗り越えて和平合意に貢献した軍隊です。その歴史は、ボスニア・ヘルツェゴビナの複雑な紛争の歴史を象徴するものと言えるでしょう。

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