バニャ・ルカ

バニャ・ルカ：歴史と文化が息づく都市

バニャ・ルカは、ボスニア・ヘルツェゴビナの北西部に位置する、同国で2番目に大きな都市です。スルプスカ共和国の事実上の首都としての役割も担っており、ボサンスカ・クライナ地方の中心地として発展してきました。その歴史は古代にまで遡り、多様な文化と歴史が交錯する場所です。

地理

バニャ・ルカは、ヴルバス川が流れる窪地に位置し、周囲を丘陵に囲まれています。市内には泉が多く、森林地帯と山地に囲まれた自然豊かな環境です。マニャチャ山やチェメルニツァ山などの山々がディナル・アルプス山脈の一部を形成しており、美しい景観を作り出しています。

気候

気候は大陸性で、寒さが厳しい冬と温暖な夏が特徴です。1月の平均気温は0.8°C、7月は21.3°C。年間降水量は988mmで、降雨日は年間143日程度です。冬季には降雪も多く、北風や北東風が強く吹くことがありますが、時には南風が暑さをもたらすこともあります。

地区

バニャ・ルカ市には、多くの集落が存在します。アギノ・セロ、バニャ・ルカ、バーロヴツィ、バスタシなど、都市部から郊外まで、様々な特徴を持つ地域が広がっています。

歴史

バニャ・ルカの歴史は古代ローマ時代に遡ります。古代の要塞跡が残っており、ローマ帝国時代には属州の一部でした。7世紀にはスラヴ人が定住し始め、中世にはハンガリーの影響も受けました。1494年に初めて文献に登場し、その名前の由来には諸説あります。有力な説は、「バン（総督）の草地」から来ているというものですが、他にも「入浴」や「驚くべき」という意味の言葉に由来するという説もあります。

オスマン帝国時代

オスマン帝国時代には、バニャ・ルカはボスニアのパシャルクの中心都市として繁栄しました。フェルハト・パシャ・ソコロヴィッチは、モスクや浴場、倉庫などの建設を行い、都市の発展に大きく貢献しました。この時期に水道施設の整備が進められ、経済と都市化が急速に進みました。

オーストリア時代

ハプスブルク軍の侵攻により一時的に破壊されましたが、すぐに再建されました。オーストリア軍は軍事的な拠点としてバニャ・ルカを重要視し、教会や修道院が建設されました。19世紀には工業化が進み、製粉所やビール醸造所などが建てられましたが、近代化は遅れていました。オーストリア＝ハンガリー帝国の支配下で、鉄道や学校などのインフラ整備が進み、西欧化が始まりました。第一次世界大戦後には、ユーゴスラビア王国のヴルバス州の州都となりました。

第二次世界大戦まで

ヴルバス州の州都として、初代総督スヴェティスラヴ・ミロサヴリェヴィッチの下で急速な発展を遂げました。行政庁舎や劇場、博物館などが建設され、教育機関も拡充されました。しかし、第二次世界大戦中には、クロアチア独立国によって支配され、多くのセルビア人やユダヤ人が迫害を受け、強制収容所に送られました。市内や近郊の正教教会は破壊され、解放されたのは1945年です。

震災

1969年には、マグニチュード6.0と6.4の2回の地震に見舞われ、多くの建物が損壊し、多数の死傷者が出ました。ユーゴスラビア全土からの支援により復興が進められましたが、この時期に多くのセルビア人が周辺地域から移住してきました。

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争とその後

1990年代のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は、バニャ・ルカにも大きな影響を与えました。スルプスカ共和国が成立し、バニャ・ルカはその政治的な中心地となりました。紛争中に、多くの非セルビア系住民が迫害を受け、マニャチャ強制収容所には多くの人が収容されました。紛争終結後、一部のボシュニャク人やクロアチア人が帰還しましたが、戦前の水準には戻っていません。紛争中には16のモスクが破壊されました。

人口動態

現在のバニャ・ルカの人口は約25万人で、セルビア系住民が大多数を占めています。紛争時には多くのボシュニャク人やクロアチア人が町を去りましたが、一部は帰還しています。1991年の国勢調査では、人口は195,692人でした。

政治

バニャ・ルカは、スルプスカ共和国の首都として、多くの政府機関や関連組織の本部が置かれています。スルプスカ共和国政府や国民議会、付加価値税局、預金保険機構、中央銀行の支店などが存在し、政治の中心地としての役割を担っています。

経済

紛争中は経済的な停滞がありましたが、近年は金融部門を中心に成長しています。2002年には証券取引所が設立され、投資家や上場企業が増加しています。テレコム・スルプスカやモドリチャ精油所、飲料メーカーなどの企業が株式取引所に上場しており、欧州連合諸国やアメリカ、日本、中国などからの投資も行われています。金融当局の本部も多く、金融関連の中心都市となっています。

文化

バニャ・ルカには、豊かな歴史と文化があります。ボサンスカ・クライナ博物館や民俗誌博物館、スルプスカ共和国現代美術館などの博物館や、国立劇場、国立図書館などの文化施設があります。バンスキ・ドヴォルは、1930年代にヴルバス州の総督邸として建てられ、文化的な中心地となっています。カステル要塞は、中世の歴史を伝える重要な観光スポットです。

文化芸術団体

1927年に設立されたペラギッチは、ボスニア・ヘルツェゴビナ最古の文化芸術団体です。夏季には様々な文化イベントが開催され、音楽や芸術を楽しむことができます。

スポーツ

サッカー、ハンドボール、バスケットボールなどのスポーツが盛んで、多くのクラブチームがあります。地元のクラブチームには「戦士」を意味するボラツという伝統的な名称が使われています。また、ヴルバス川でのラフティングも人気です。

みどころ

バニャ・ルカは、美しい自然と歴史的な建物が調和した魅力的な都市です。温泉やスパ施設も多く、観光客を魅了しています。緑豊かな環境から「グリーンシティ」とも呼ばれています。市内には歴史的な建物やレストラン、ヴルバス川の滝や峡谷など、多くの見どころがあります。

交通

航空

バニャ・ルカ国際空港からは、チューリッヒやリュブリャナへの定期便が就航しており、チャーター便やサラエヴォ国際空港のバックアップ機能も有しています。

鉄道・道路

鉄道網はボスニア・ヘルツェゴビナ北部の町や、ザグレブ、ベオグラードなどと結ばれていますが、紛争の影響で整備が遅れています。長距離バスは、国内外の幅広い地域とを結んでおり、便利な移動手段となっています。欧州自動車道路661号線は、クロアチア国境へと続いており、現在改良工事が進められています。

公共交通機関

市内交通は主にバスが担っており、多くの路線が運行しています。タクシーも利用できます。

出身者

インディラ・ラディッチ（歌手）、ネヴェン・スボティッチ（サッカー選手）、ロマナ・パニッチ（歌手）、イワン・リュビチッチ（テニス選手）など、多くの著名な人物を輩出しています。

姉妹都市

ベオグラード（セルビア）、グラーツ（オーストリア）、カイザースラウテルン（ドイツ）、リヴィウ（ウクライナ）、モスクワ（ロシア）、オーデンセ（デンマーク）、パトラ（ギリシャ）など、多くの都市と姉妹都市提携を結んでいます。

まとめ

バニャ・ルカは、豊かな歴史と文化、美しい自然、そして多様な民族が共存する魅力的な都市です。その歴史は古代から続き、オスマン帝国、オーストリア＝ハンガリー帝国、そしてユーゴスラビアの時代を経て、現在に至ります。紛争の歴史を乗り越え、復興を遂げたこの都市は、政治、経済、文化の中心地として、今後もさらなる発展を続けることでしょう。

もう一度検索