ポカイア

ポカイア（フォカエア、古希: Φώκαια, Phōkaia, ラテン語: Phocaea）は、現在のトルコ西部に位置する古代ギリシアの都市で、その歴史は紀元前9世紀にまで遡ります。イオニア地方に位置し、卓越した航海術を持つ人々が住んでいたことで知られています。

植民活動と初期の歴史

ポカイアの人々は、紀元前600年頃から地中海各地への植民活動を積極的に展開しました。マッサリア（現在のフランス・マルセイユ）、エンポリオン（現在のスペイン・カタルーニャ地方のエンプリエス）、エレア（現在のイタリア・カンパニア地方のヴェリア）などがその代表的な例です。これらの植民地は、ポカイアの文化と影響力を広げる重要な拠点となりました。

伝説によれば、ポカイアはアテナイによって建設され、その地はアイオリスの都市キュメから譲り受けたものとされています。ポカイアは、アテナイ王コルドスの血を引く者を王として迎えることで、イオニア同盟に加盟を認められました。考古学的な証拠からは、紀元前9世紀にはまだアイオリス人が存在していたことが示されており、イオニア人の入植はそれ以降と考えられています。

航海術と交易

ポカイアの人々は、古代ギリシア世界において最も優れた航海術を持つ人々として知られていました。ヘロドトスによると、彼らは地中海を広範囲に航海し、アドリア海、エトルリア、スペインの海岸に到達した最初のギリシア人であったとされています。特に、スペインのタルテッソス王アルガントニオスは、ポカイアの人々に感銘を受け、彼らを自国に定住させようと試みましたが、彼らはそれを辞退しました。代わりに、王はポカイアの城壁建設のために大量の黄金を贈ったと伝えられています。

ポカイアは、南はエジプトのナウクラティス、北は黒海のアミソスやヘレースポントス海峡のランプサクスとも交易を行いました。しかし、彼らの最も重要な植民地は西方にありました。コルシカ島のアレリア、マッサリア、エンポリオンなどがその代表です。

リディアとペルシアの支配

ポカイアは、リディア王クロイソスの時代まで、他のイオニア都市と同様にリディアの支配下にありましたが、自治は維持していました。しかし、紀元前546年にペルシアのキュロス大王がリディアを滅ぼすと、ポカイアはペルシアの支配下に入ることになりました。ペルシアの支配を嫌ったポカイアの人々は、キオス島や他の植民地に移住しましたが、その後一部の住民は故郷に戻りました。

イオニアの反乱とその後

紀元前500年に始まったイオニアの反乱では、ポカイアもこれに加わりました。ポカイアの艦隊は、その航海技術を買われ、ラデ沖の戦いでイオニア艦隊を率いることになりました。しかし、当時のポカイアは衰退しており、イオニア都市国家連合艦隊353隻のうち、ポカイアの艦船はわずか3隻しかありませんでした。この戦いはイオニア側の敗北に終わり、反乱も終焉を迎えました。

アテナイとの関係

紀元前480年のペルシア戦争でギリシアが勝利すると、アテナイが勢力を拡大しました。ポカイアはアテナイに2タラントの貢納金を支払い、デロス同盟に加盟しました。しかし、紀元前412年のペロポネソス戦争では、他のイオニア都市とは異なり、ポカイアはスパルタを支持しました。

ヘレニズム時代以降

ヘレニズム時代には、ポカイアはセレウコス朝、アッタロス朝ペルガモン王国の支配を受け、その後ローマ帝国、ビザンティン帝国、オスマン帝国と支配者が変わりました。13世紀にはジェノヴァの提督ベネデット・ザッカリーアがポカイアを支配し、大きな財産を築きました。

貨幣鋳造

ポカイアは、リディア人に次いで早く貨幣を鋳造した都市の一つです。彼らのコインは、金と銀の合金であるエレクトラムで作られ、アザラシの絵が描かれていました。これは、ギリシア語でアザラシが「phoca」と呼ばれることに由来しています。大英博物館には、紀元前600年から紀元前500年の間に鋳造されたポカイアのコインが所蔵されています。

ポカイアは、その長い歴史の中で、様々な文化や支配者との接触を通して、独自の文化を育んできました。その遺跡は、古代ギリシア世界の重要な歴史を今に伝えています。

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