マクセル UD

マクセル UD シリーズ解説

UD（ULTRA DYNAMIC）は、かつて日立マクセル（現・マクセル株式会社）が製造・販売していたカセットテープのブランドです。1970年に登場し、音楽録音用テープのスタンダードとして長年愛されてきました。本記事では、UDシリーズの歴史、各モデルの特徴、技術的な進化、そしてその終焉までを詳しく解説します。

UDシリーズの概要

1970年6月、マクセルは「ULTRA DYNAMIC（UD）」という名称でカセットテープを発売しました。このテープは、TDKのSDやソニーのHFといった高性能オーディオテープの先駆けとなる製品で、音楽録音の品質向上に大きく貢献しました。UDシリーズは、1972年、1978年、1981年と改良を重ね、その都度磁性体の特性も進化しました。

1978年の全面改良では、ピュア・クリスタル(PX)ガンマ酸化鉄を採用し、高域の出力が大幅に向上しました。この改良以降、UDはマクセルの音楽録音用カセットテープのスタンダードモデルとして展開されました。

しかし、1990年代後半になると、MDやDAT、CD-R/RWといったデジタルオーディオメディアが主流となり、カセットテープの需要は急速に低下しました。その結果、2002年末をもってUDシリーズは生産・出荷を終了し、32年の歴史に幕を閉じました。

UDシリーズの主なモデル

UDシリーズには、様々なモデルが存在します。以下に主なモデルを詳細に解説します。

UD-XL / UD-XL I / XL I

UDの上位モデルとして、1974年から1978年まで販売されました。特に、1976年の改良でUD-XL Iと改称され、1978年にはXL Iとして独立しました。ノーマルポジションの音楽録音専用テープで、高音質が特徴です。

UD-XL II / XL II

UD-XL Iのハイポジション版として1976年から1978年まで販売されました。1978年にはXL IIとして独立。ハイポジションならではの高音質が魅力です。

UDI (UD1)

1983年にUDの後継モデルとして登場しました。THE MODSのCMソングでも知られ、ノーマルポジションの最下級グレードとして発売されました。1988年にハーフのデザインが変更され、テープ残量を確認できる窓が追加されました。

UD II (UD2)

1984年に発売されたハイポジション用カセットテープです。ワム!をCMキャラクターに起用したことで知られています。UDIと同様に、1988年にハーフのデザインが変更されました。

UDI-S / UDI-N

初代UDIの高音質仕様モデルとして1985年に発売されました。1986年にUDI-Nに改称。初代UDIよりもわずかに音質が向上しています。

UDI-R

オートリバース機用に特化したモデルとして1985年に発売されました。A面とB面でハーフのデザインが異なっています。

UD II-U / UD II-N

初代UD IIの高音質仕様モデルとして1985年に発売されました。1986年にUD II-Nに改称。初代UD IIよりもわずかに音質が向上しています。

METAL UD

1990年に発売されたメタルポジション用カセットテープです。スピンテック・メタルアロイ磁性体を採用し、高音質を実現しました。幾度か改良を重ね、2000年まで販売されました。

UD60FM

音楽之友社「stereo」2019年11月号の付録として提供された限定版カセットテープです。ノーマルポジションの音楽録音専用テープです。

技術的な進化

UDシリーズは、発売開始から終了まで、常に技術的な進化を続けてきました。磁性体の改良はもちろん、ハーフのデザインや耐久性の向上にも力が入れられました。特に、1978年のピュア・クリスタル(PX)ガンマ酸化鉄の採用は、音質の向上に大きく貢献しました。

UDIとUDIIでは、1990年以降の製品でそれぞれに最適化された磁性体が採用されています。UDIではニュー・ノンポア・エピタキシャル磁性体、UDIIではニュー・クリア・エピタキシャル磁性体が採用され、末期にはそれぞれブラックマグネタイトI、ブラックマグネタイトII磁性体へと進化を遂げました。

UDシリーズの終焉と後継モデル

UDシリーズは、2002年末に生産・出荷を終了しました。カセットテープの需要低迷が主な理由です。しかし、UDシリーズは、その長い歴史の中で、多くの音楽ファンに愛され、オーディオテープの歴史に大きな足跡を残しました。

UDシリーズの後継モデルとしては、MUSIC GEARシリーズが挙げられます。特に、MUSIC GEAR 1（MG1）はUD1、MUSIC GEAR 2（MG2）はUD2の実質的な後継モデルとして位置づけられています。

まとめ

マクセルのUDシリーズは、1970年から2002年まで、音楽録音用カセットテープのスタンダードとして、多くの人々に愛されてきました。その技術的な進化と多様なモデル展開は、オーディオの歴史を語る上で欠かせない存在です。UDシリーズは、カセットテープの時代を代表する名機として、今後も語り継がれていくでしょう。

参考文献

ONTOMO MOOK stereo編『カセットテープ完全アルバム僕たちの青春を彩ったカセットテープのすべて』音楽之友社、2023年
FUTABASHA SUPER MOOK『〜マクセル・カセットテープ・マニアックス〜』双葉社、2024年