マフムード1世 (セルジューク朝)

ナースィルッディーン・マフムード1世（Nasir ad-Din Mahmud I）は、西暦1086年頃に生を受け、1094年11月にその短い生涯を終えた大セルジューク朝の君主（スルターン）です。彼は、セルジューク朝最盛期を築いた偉大なスルターン、マリク・シャーの子息でした。父の死後、名目上はスルターンの地位を継承したものの、彼の治世はわずか2年（1092年から1094年まで）に過ぎず、しかもその間、セルジューク帝国全体に対する実効支配を確立することはできませんでした。

マフムード1世がスルターンに即位した背景には、父マリク・シャーの急逝に伴う激しい後継者争いがありました。マリク・シャーの生前、宰相ニザームルムルクはマリク・シャーの長男であるバルキヤールクを次期スルターンに推していました。しかし、1092年にマリク・シャーが世を去ると、マフムード1世の母である influential な女性、テルケン・ハトゥンが大きな影響力を行使しました。彼女は当時のアッバース朝のカリフ、ムクタディーに対し、幼い息子であるマフムード1世のスルターン位継承を正式に承認するよう働きかけ、これを実現させました。一方、ニザームルムルク派に支持された兄バルキヤールクもまた独自にスルターンを称したため、セルジューク朝の領域内には二人のスルターンが並立するという、極めて不安定な状況が生まれたのです。この内部対立は、帝国の権威を著しく損なうこととなりました。

マフムード1世が形式的にスルターンの座にあった期間は、まさに大セルジューク朝が急速に分裂へと向かっていた時期と重なります。父マリク・シャーの死後、中央集権的な統治が揺らぎ始めると、帝国の各地で有力者たちが次々と自立の動きを見せました。アナトリアでは、セルジューク朝の宮廷があったイスファハーンから脱出したクルチ・アルスラーン1世がルーム・セルジューク朝を樹立し、独立した政権を打ち立てました。シリアにおいても、マフムード1世の叔父にあたるトゥトゥシュが独立を宣言し、勢力を拡大しました。さらに、アレッポやディヤルバクルの支配者たちも中央の権威に従わず、それぞれの地域で独立的な立場を確立しました。このように、マフムード1世が名目上のスルターンであった短い期間、帝国の広大な領土はいくつもの勢力に分断されつつあったのです。

マフムード1世自身は、このような混乱の中で実権を十分に振るう機会を持つことなく、即位からわずか2年後の1094年11月、幼くして天然痘に罹り、この世を去りました。彼の短い治世とその後の混乱期は、大セルジューク朝が単一の強力な帝国としての統合を失い、各地の地方政権が台頭する時代への転換点となりました。

セルジューク帝国内のこの深刻な分裂は、後に西ヨーロッパから到来する軍勢にとって、極めて有利に作用することになります。1096年に始まった第1回十字軍は、もしセルジューク朝がマリク・シャー時代の強力な統一を保っていたならば、その行く手を阻まれた可能性が高かったでしょう。しかし、帝国が内部分裂し、各地の支配者がバラバラに行動していたため、十字軍は予想以上の成功を収めることができました。ナースィルッディーン・マフムード1世の短く困難な治世は、こうした大セルジューク朝の衰退と、それに続く歴史的変動の一局面を象徴していると言えます。

もう一度検索