マラシェシュティ (フリゲート)

マラシェシュティ (Fregata Mărășești (F 111))

マラシェシュティはルーマニア海軍に所属するフリゲートであり、同国海軍において現在運用されている中で最大の戦闘艦艇です。その艦歴は、計画から戦力化に至るまでに多くの変遷を辿りました。

建造と波乱の艦歴

本艦は、ニコラエ・チャウシェスク大統領による海軍力強化計画の一環として、1978年3月1日にマンガリアの造船所で起工されました。当時のルーマニア人民海軍では「軽巡洋艦」という独自の艦種区分が与えられ、1985年6月に竣工。当初はルーマニア海軍の旗艦としての役割を担いました。1986年8月2日には、チャウシェスク自身によってルーマニア南部の地方名にちなみ「ムンテニア」と命名されています。

しかし、過剰ともいえる兵装の搭載により、艦体構造のバランスが悪く、トップヘビーに起因する安定性の問題が露呈しました。このため、穏やかな海域でさえ航行安定性に難があったとされ、竣工からわずか3年後の1988年には改善工事のため造船所に戻されました。

1989年12月のルーマニア革命を経て、政治体制が大きく変化した直後の1990年5月2日、本艦は革命の発端となった都市の名を冠して「ティミショアラ」に改名されるとともに、艦種も駆逐艦へと変更されました。さらに同年8月27日には、第一次世界大戦においてルーマニア王国がドイツ帝国に勝利した激戦地であり、かつてルーマニア王国海軍が保有した駆逐艦マラシュティ級2番艦の名を継ぐ形で、現在の「マラシェシュティ」に再改名されました。度重なる改修作業は1992年8月にようやく完了し、本艦はようやく実質的な戦力として認められるに至りました。

設計上の特徴

マラシェシュティの艦体設計は、その大半がルーマニア独自のものであり、搭載される兵装についても、ソビエト連邦から直接供与されたもの以外は、ルーマニア国内でライセンス生産された装備が多く採用されています。

艦体は平甲板型を採用しており、主要な兵装は艦首部分に集中配置されています。ここには主砲、対艦ミサイル発射機、対潜ロケット砲などが搭載されました。艦尾には対艦ミサイルに加え、ヘリコプターの運用を可能とする飛行甲板と格納庫が設けられています。こうした兵装配置や大型の上部構造、さらに2本のマストが組み合わさった結果、初期には前述のトップヘビー問題を引き起こしました。この問題に対処するため、後の改修では艦橋の小型化や、艦首に搭載されていた対艦ミサイル発射機の配置変更といった改良が施されています。

搭載兵装

本艦の兵装は旧東側諸国の標準的な装備が多く見られます。

砲熕兵器: 主砲には、東側諸国の軍艦に広く採用されているAK-726 76.2mm連装砲を背負い式に2基搭載しています。当初は2番砲脇に対艦ミサイル発射機があったため、2番砲の射界が制限されていましたが、改修により改善されました。近接防御火器としては、AK-630 30mmガトリング砲を4門装備しています。

ミサイル: 主力攻撃兵装の一つとして、P-15M（NATOコードネームSS-N-2C スティックス）艦対艦ミサイルの連装発射機を4基搭載しています。これは1970年代に登場したP-15の改良型で、電波高度計による低高度巡航能力と80kmに延伸された射程を持ちます。マラシェシュティが搭載するのは輸出型であるP-21またはP-22とされています。発射機は艦首の2番砲両脇と艦尾の格納庫両側に配置されており、艦首側の発射機も初期の高所配置から改修で一段低い甲板に移設されています。

* 対潜装備: 対潜攻撃用としては、東側標準のRBU-6000対潜ロケット砲2基を艦橋前方に、また、533mm魚雷の3連装発射管2基を煙突両側に装備しています。

航空運用能力

艦尾の格納庫にはヘリコプターを搭載・運用する能力があります。フランス製SA 316のライセンス生産型であるIAR-316を最大2機、または2007年に採用された国産のIAR-300 Navalヘリコプターを1機収容可能です。これらのヘリコプターは、特段の対潜装備を搭載しておらず、主に捜索救難（SAR）任務や洋上哨戒に使用されます。

現在の運用状況

2001年には正式にフリゲートへと艦種が変更されました。2004年にルーマニアが北大西洋条約機構（NATO）に加盟したことに伴い、本艦の通信システムもNATO標準規格の機器に換装されています。同年、旗艦としての地位は、イギリス海軍から取得・改修された旧22型フリゲート「コヴェントリー」を改名した「レジェーレ・フェルディナンド」（F221）に譲りました。

しかし、その後もマラシェシュティはルーマニア海軍最大の軍艦としての地位を保ち続けており、同海軍の主要な戦闘艦艇として、NATOが実施する各種の共同演習にも頻繁に参加するなど、現在も重要な役割を担っています。

その数奇な建造経緯や度重なる改修・改名を経たマラシェシュティは、ルーマニア海軍の歴史を象徴する存在と言えるでしょう。

もう一度検索