マルキャン・ボリシコ

マルキャン・ボリシコは、1885年から1888年の間に、帝政ロシア時代のウクライナ東部ハリコフ州で生まれました。彼は、後に大相撲で国民的な人気を博した横綱・大鵬幸喜の父親であり、プロレスラー納谷幸男、大相撲力士の納谷幸林、王鵬幸之介、夢道鵬幸成の曾祖父にあたります。彼の生涯は、20世紀初頭の激動する世界情勢と深く結びついていました。

樺太への移住と亡命

マルキャンは、ロシア帝国による極東移住の呼びかけに応じた農民の両親と共に、樺太へ渡りました。1917年にロシア革命が勃発すると、北樺太はアレクサンドル・クラスノシチョーコフが率いる極東共和国の一部となりました。1918年には、アレクサンドロフスク市でロシア人未亡人と結婚し、一女をもうけました。しかし、極東共和国が消滅し、北樺太の社会主義化が進むにつれて、マルキャンは革命政権を嫌い、1925年に単身で日本統治下の南樺太の大泊（現コルサコフ）へ亡命しました。

南樺太での生活と成功

1928年、マルキャンは洋裁店に勤務していた納谷キヨ（後志管内神恵内村出身）と結婚。翌年からは敷香で牧場を経営しました。彼は、多くの日本人や白系ロシア人を雇用し、肉や乳製品を卸すことで成功を収め、南樺太では知られた名士となりました。1940年5月29日には、敷香郡敷香町で息子の幸喜（後の大鵬）が誕生しました。当時、南樺太にはロシア革命を逃れてきた多くのウクライナ系、ポーランド系住民が居住していましたが、マルキャンもその一人でした。

第二次世界大戦と強制収容

1944年、第二次世界大戦の戦況が悪化する中、樺太庁の指示により、マルキャンを含むこれらの住民は美喜内村の外国人居留地に移送されました。マルキャンは家族と離れ、一人で居留地での生活を余儀なくされました。1945年8月には、ソ連軍が南樺太に侵攻し、民間人にも多くの犠牲者が出ました。マルキャンの家族は北海道へ引き揚げましたが、彼との連絡は絶たれました。


戦後、南樺太がソ連の実効支配下になると、外国との繋がりがあったマルキャンは、1949年に大泊でソ連当局に逮捕され、反ソ宣伝の罪で懲役10年の刑を言い渡され、強制収容所に送られました。1954年に恩赦を受け出所しましたが、その後はサハリン州立博物館の守衛として働くことになります。そして1960年11月15日、肺炎のためユジノサハリンスク（旧豊原市）で亡くなりました。その日は、息子イヴァーン（幸喜、大鵬）が関脇として初優勝を遂げた昭和35年11月場所の最中でした。

名誉回復と国際交流

マルキャンの生涯は、長らく忘れられた存在でしたが、1989年、スターリン時代に無実の罪で強制収容された人々が、ゴルバチョフ政権によって公式に名誉回復されました。2001年には、サハリン州の日本研究家によってマルキャンの生涯が明らかになり、ウクライナのハルキウ市に大鵬記念館が建設されました。この記念館は、息子の企画によるハルキウでの相撲大会や、日本とウクライナの国際交流の舞台となっています。


マルキャン・ボリシコの人生は、激動の20世紀を象徴するものであり、彼の足跡は、現代に生きる私たちに多くの教訓と感動を与えてくれます。彼の生涯は、単なる個人の物語ではなく、歴史、文化、そして家族の絆を深く考えさせるものなのです。

関連人物

大鵬幸喜
納谷幸男
王鵬幸之介
夢道鵬幸成
白系ロシア人

外部リンク

大鵬幸喜プロフィール

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