マルクス・テレンティウス・ウァッロ

マルクス・テレンティウス・ウァッロ：ローマ共和政後期の多才な人物

マルクス・テレンティウス・ウァッロ（紀元前116年 - 紀元前27年）は、共和政ローマ後期を代表する著名な政治家、学者、そして作家でした。レアテ（現在のリエーティ）近郊の裕福なエクィテス階級の家に生まれ、広大な農場を所有していました。彼は、言語学者ルキウス・アエリウス・スティロやアテナイのアカデメイアの哲学者アンティオコスらに師事し、幅広い知識を身につけました。

政治家としてのウァッロは、グナエウス・ポンペイウスを支持し、護民官、財務官、法務官などの要職を歴任しました。カエサル執政官時代には、カプアとカンパニアの再植民計画委員にも選ばれています。内戦が勃発すると、ポンペイウス側につきましたが、イレルダの戦いでの敗北後、ギリシアに逃亡。ファルサルスの戦いの後にはカエサルに降伏し、紀元前47年にはカエサルからローマの公立図書館長に任命されました。

カエサル暗殺後、アントニウス政権下で追放され、多くの資産を失うも、アクティウムの海戦後、アウグストゥスの庇護を受け、研究と執筆に専念できるようになりました。アウグストゥスの治世下で没したと伝えられています。

ウァッロの最も重要な業績は、多岐にわたる著作活動です。リッチェルによれば、74作品、約620巻に及ぶ膨大な著作を残したと推測されています。現存する作品としては、『農業論』3巻が挙げられますが、断片的にしか残っていない作品も多くあります。

特に注目すべきは『年代記』です。これは、ウァッロの時代までのローマの年表を正確に作成しようとしたもので、共和政ローマ執政官の慣習的な順序に基づいて編纂されました。独裁政権や無政府状態の年も加えることで、年表の空白を補っています。一部の誤りも指摘されていますが、『ファスティ・カピトリヌス』として一部が現存し、権威ある年代記として広く受け入れられました。

ウァッロは、『ラテン語論』、『メニッポス風風刺詩』、『人類と神々の古代史』など、様々な分野を網羅した著作を残しました。建築学に関する著作や、現代の視点から見ると細菌学や疫学に通じる記述も注目されます。彼は、沼地や湿地帯を避けるよう警告し、それらの場所が病気の原因となる微細な生き物を繁殖させると指摘していました。

ウァッロはキケロ、大プリニウス、ウェルギリウスら多くの古代ローマの作家に影響を与え、彼らからも高く評価されています。クインティリアヌスからは「ローマ人で最も教養がある」と評されました。彼の著作は、古代ローマ社会や文化を知る上で貴重な一次史料となっています。 ウァッロの膨大な著作群は、残念ながら多くが失われてしまいましたが、現存する断片や引用から、彼の多大な才能と貢献の一端を垣間見ることができます。彼の著作は、現代においても歴史学、言語学、農学など様々な分野で研究されています。

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