マルクス・リウィウス・ドルスス

マルクス・リウィウス・ドルスス：共和政ローマの政治家

マルクス・リウィウス・ドルスス（紀元前108年没）は、共和政ローマ期の政治家であり軍人です。平民（プレブス）出身でありながら、その才能と手腕でローマ社会に大きな影響を与えました。護民官としてガイウス・グラックスの改革を阻止し、その後、執政官（コンスル）、マケドニア属州総督、監察官（ケンソル）を歴任しました。

出自

ドルススは、プレブスであるリウィウス氏族の出身です。しかし、紀元前302年にはマルクス・リウィウス・デンテルが執政官に就任しており、紀元前3世紀末からは富と名声を背景に多くの高官を輩出しました。「ドルスス」というコグノーメン（家族名）は、ケルト語に由来すると考えられています。

ドルススの父方の祖父は、パトリキ（貴族）であるアエミリウス氏族の出身でしたが、マルクス・リウィウス・サリナトル（紀元前219年と紀元前207年の執政官）の養子となりました。これは、パトリキがプレブスを養子に迎えた最初の例です。ドルススの父であるガイウス・リウィウス・ドルススは紀元前147年に執政官を務めています。

経歴

初期の経歴

キケロによれば、ドルススはガイウス・グラックスとほぼ同年齢でした。若い頃は「スキピオ派」に属していたと考えられ、ギリシア文化を愛し、穏健な改革を目指していました。紀元前122年に護民官に就任したことから、その活動が歴史に登場します。リウィウス氏族という出自から、ドルススはオプティマテス（門閥派）に所属していたと考えられます。妻はパトリキのコルネリウス氏族の出身でした。

護民官

紀元前122年、ドルススは護民官に就任します。同僚護民官の一人には、前年から連続当選して過激な改革を進めていたガイウス・グラックスがいました。ドルススは、グラックスの政敵から改革を阻止することを期待されて推薦されたと考えられます。護民官の職権である拒否権を行使し、グラックスの法案の実施をあらゆる手段で阻止しました。同時に、ドルススは自身の改革案を提示することでグラックスの人気を落とそうとしました。グラックスが提唱したローマ市民権をラテン同盟都市にも与える法案を無力化するために、ラテン市民に対する体罰を禁止する法案を成立させました。

ドルススは、グラックス派の護民官であるマルクス・フルウィウス・フラックスをスキピオ・アエミリアヌス暗殺の容疑で告訴しました。ドルススの行動はオプティマテスの勢力を強め、グラックスは翌年の選挙に落選し、反乱を起こしますが失敗、自決しました。この護民官としての活動により、ドルススは「元老院の擁護者」との称号を得ました。

法務官

キケロの手紙に、ドルススという人物が首都法務官（プラエトル）であったことが記されています。ウィリウス法の規定から、紀元前115年までには法務官に就任していたはずです。

執政官および属州総督

紀元前112年、ドルススは執政官に就任します。同僚執政官はルキウス・カルプルニウス・ピソ・カエソニヌスでした。その後、前執政官（プロコンスル）としてマケドニア属州総督を務め、トラキアおよびスコルディスキとの戦争を指揮しました。これらの戦いで勝利を収め、ローマに戻ったドルススは凱旋式を実施しました。

監察官

紀元前109年、ドルススはマルクス・アエミリウス・スカウルスとともに監察官に就任しますが、翌年、任期中に死去しました。

家族

ドルススはコルネリアと結婚し、二人の息子と一人の娘をもうけました。長男マルクス・リウィウス・ドルススは、紀元前91年の護民官としてローマの改革を実施しました。次男はアエミリウス・レピドゥス家に養子に入り、マメルクス・アエミリウス・レピドゥス・リウィアヌスという名前で紀元前77年の執政官となりました。娘ユリアは、小カエピオと結婚し、その後マルクス・ポルキウス・カト・サロニアヌス（大カトの孫）と結婚して小カトを産みました。

評価

キケロによれば、ドルススは「雄弁と強固な意志」を持っていました。シケリアのディオドロスは、「美徳をもった貴人であるが、護民官として市民にも愛され」、寛大で、「非常に信頼され」、良心の持ち主と評価しています。ドルスス家は、その高貴さと市民に対する優しさで知られていました。

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