マルクス・リウィウス・ドルスス (護民官)

マルクス・リウィウス・ドルススは、共和政ローマ後期の政治家であり、紀元前91年に護民官を務めました。彼の改革案は、結果として同盟市戦争を招いたとされています。ドルススの生涯と政治活動を詳細に見ていきましょう。

出自と初期のキャリア

ドルススは、平民であるリウィウス氏族の出身です。彼の父は紀元前112年の執政官マルクス・リウィウス・ドルススと考えられています。彼は、トリブヌス・ミリトゥム（軍事担当官）を務めていたことが碑文から判明しており、これは紀元前105年頃のことと推測されています。また、紀元前104年頃には、セルウィウス・トゥッリウスが定めたとされる、戦利品に関する裁判の裁判官の一人であったことも分かっています。

紀元前102年頃にはクァエストル（財務官）に就任し、小アジアに派遣されました。その際、彼は質素な服装をしていたと伝えられています。紀元前94年頃にはアエディリス（按察官）に選出され、派手な祝祭を催して民衆を喜ばせましたが、同僚のレンミウスの提案に対しては冷淡な態度を取りました。

プルタルコスによれば、ドルススは幼い小カト兄妹の教育係を務めていた時期があり、その雄弁さと知慮の深さから政界でもリーダー的な存在であったとされています。また、マルシ人のリーダーであるクィントゥス・ポッパエディウス・シロとも親交があり、同盟市戦争の前にはシロを自宅で数日間もてなしたという記録が残っています。

護民官としての活動

紀元前91年、ドルススは護民官に選出され、様々な法案を提出しました。その中には、審問所の審判人に関する法（Lex Livia iudiciaria）、土地分配法（Lex Livia agraria）、そして同盟市にローマ市民権を付与する提案（Rogatio Livia de civitate sociis danda）が含まれていました。

しかし、これらの法案は多くの反発を招きました。ティトゥス・リウィウスの梗概によれば、ドルススは元老院に協力してエクィテス（騎士階級）から審判人の地位を奪おうと企て、同盟市に市民権を与えることを取引材料として法案の成立を図りました。しかし、彼は約束を破ったため、イタリック人の怒りを買い、同盟市戦争の一因となったとされています。最終的に、彼は元老院からも見放され、暗殺されたと伝えられています。

ドルススは、長年にわたって元老院第一人者（プリンケプス・セナトゥス）を務めていたマルクス・アエミリウス・スカウルスの派閥に属していました。彼の叔父であるプブリウス・ルフスが紀元前92年に不当利得返還裁判で有罪判決を受けたことが、ドルススが審判人の構成員改革を推し進める動機になったと考えられています。この派閥には、ルキウス・リキニウス・クラッススといった著名な弁論家も含まれており、彼らのサポートがドルススの立法活動を支えていたと考えられます。

リウィウス法

ドルススは、以下の法案を提出したことで知られています。

Lex Livia de coloniis deducendis（植民市建設に関するリウィウス法）：紀元前122年に彼の父が成立させた植民市建設に関する提案の復活。
Rogatio Livia de civitate sociis danda（同盟市の市民権付与に関するリウィウスの提案）：イタリック人に約束したとされるが、公布されたかどうかは疑わしい。
Lex Livia nummaria（リウィウス硬貨法）
Lex Livia frumentaria（リウィウス穀物供給法）：恐らく供給価格の値下げを提案。
Lex Livia iudiciaria（リウィウス審判人法）
Lex Livia agraria（リウィウス農地法）

評価

マルクス・リウィウス・ドルススの政治活動は、共和政ローマの社会に大きな影響を与えました。彼の改革は、同盟市戦争という内乱を引き起こす一因となり、その後のローマ共和政の崩壊へとつながる要素となりました。彼の政策の意図や評価については、様々な議論がありますが、彼の行動がローマ史における重要な転換点であったことは間違いありません。

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