マンドゥフイ・ハトゥン

マンドゥフイ・ハトゥン：モンゴル中興を支えた賢妃

マンドゥフイ・ハトゥン（1448年?または1449年? - 1510年）は、北元のマンドゥールン・ハーンとダヤン・ハーンの妃であり、激動の時代を生きた女性です。彼女は、ダヤン・ハーンを擁立し、モンゴルの中興に大きく貢献したことで知られ、「セチェン・ハトゥン（賢明なる妃）」とも称えられています。

生涯

『蒙古源流』によると、マンドゥフイはトゥメト・トゥメンに属するオングト・オトクのチョロスバイ・テムル・チンサンの娘として生まれました。彼女は成長後、マンドゥールン・ハーンの小ハトゥン（第二夫人）となります。

当時のモンゴルは、ハーンの権力が弱体化し、有力な部族が台頭する混乱期にありました。マンドゥールン・ハーンを擁立したのはヨンシエブ部のベグ・アルスランでしたが、彼は娘のイェケ・ハバルト中宮を大ハトゥン（第一夫人）として実権を握り、ハーンとの対立を深めます。最終的に、マンドゥールン・ハーンはイスマイルやトゥルゲンと協力してベグ・アルスランを殺害しますが、自身も間もなく病没してしまいます。

ハーンには後継者がおらず、マンドゥフイとの間には娘が2人いたものの、ハーン位を巡って混乱が生じます。有力者たちは、自らの勢力を拡大するため、ハーン位を狙っていました。

そのような状況下で、ホルチン部のウネ・ボラトは、マンドゥールン・ハーンの遺産を引き継いだマンドゥフイに求婚し、ハーン位を継承しようと目論みます。しかし、マンドゥフイはチンギス・カンの血統を引く幼いバトゥ・モンケの存在を知り、どちらと結婚すべきか周囲に意見を求めました。最終的に、彼女はバトゥ・モンケこそがハーンにふさわしいと決断します。

1479年、マンドゥフイは当時7歳のバトゥ・モンケと結婚させ、「ダヤン・ハーン（大元可汗）」として擁立しました。彼女は自ら軍を率いてドルベン・オイラトに遠征し、勝利を収めるなど、ダヤン・ハーンを支え、モンゴルの再統一に尽力しました。ダヤン・ハーンとの間には7人の息子と1人の娘をもうけ、息子たちはそれぞれ王家を形成し、モンゴルの繁栄を築き上げました。

史実におけるマンドゥフイ・ハトゥン

モンゴル年代記では、マンドゥフイ・ハトゥンはダヤン・ハーン擁立の立役者として称賛されています。しかし、同時代の漢文史料には彼女に関する記述がほとんどなく、イスマイルやトゥルゲンらの貢献が強調されています。そのため、マンドゥフイ・ハトゥンの役割は誇張されているという説もあります。

年代記の作者たちが、ハーンを傀儡としたイスマイルらを貶め、マンドゥフイ・ハトゥンの業績を特筆することで、ハーンの権威を維持しようとしたのではないかという見方もあります。一方で、井上治は、漢文史料に記述がないことを理由にマンドゥフイ・ハトゥンの存在自体を疑問視するのは不適切であり、彼女の配慮とイスマイルの支持の両方がダヤン・ハーンの即位に関係したと指摘しています。

マンドゥフイ・ハトゥンは、モンゴルの歴史において重要な役割を果たした女性であることは間違いありません。彼女の生涯は、激動の時代における女性の強さ、知性、そして決断力を象徴するものとして、語り継がれています。

関連作品

小説：『賢妃 マンドハイ』（ナツァグドルジ・シャグダルシャブィン著）
映画：マンドハイ（1988年、モンゴル、演：ナムスライン・ソブド）

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