ムジャーヒディーン (ミャンマー)

ムジャーヒディーン

「ムジャーヒディーン」は、「聖戦の兵士」を意味する言葉で、1947年から1961年にかけて、現在のミャンマー・ラカイン州北部、特にバングラデシュとの国境地帯で活動したミャンマーの反政府武装組織です。彼らはまた「ムジャヒッド党」とも呼ばれました。

背景

第二次世界大戦後、1945年10月にイギリス軍がシムラーからミャンマーへ帰還した際、東パキスタン（現在のバングラデシュ）からの新たなムスリム移民が多数流入しました。これらの新規移民は、「ムジャヒッド」と呼ばれ、それ以前からラカインに居住していたムスリムとは区別されるようになりました。彼らは分離主義的な傾向を持ち、パキスタンへの併合、あるいは独立したムスリム国家の樹立を強く望んでいました。この動きの中で、1946年3月にはイスラム解放機構（MLO）が、同年7月には北アラカン・ムスリム連盟（NAML）が結成され、分離独立やラカインと東パキスタンの合併を主張する運動が始まりました。ムジャヒッドの代表団は、1946年5月と1947年7月の二度にわたり、パキスタンの指導者ムハンマド・アリー・ジンナーにラカイン北部のパキスタンへの併合を求めましたが、ジンナーはこれをミャンマーの内政問題として拒否しました。この一連の動きに対し、独立以前からラカインに住むムスリムたちは概して批判的だったと伝えられています。

結成

このような情勢下、1947年8月20日、ジャファル・フセイン（ジャファル・カワルの名で知られるスーフィズム音楽の著名な歌手）という人物が、ブティタウンで数百人の有志を集め、武装組織「ムジャーヒディーン」を結成しました。彼は地元有力者の息子であり、日本軍による軍事訓練を受けた経験がありました。著名なムスリム詩人ムハンマド・イクバールの詩を引用し、信仰や尊厳を守るために命を懸けるよう人々に呼びかけました。

結成当初、ムジャーヒディーンの兵力は約1000人でした。緑のベレー帽や星と三日月が描かれたバッジ付きのシャツといった特徴的な装いをしており、メンバーには第二次大戦中にイギリス軍下のV・フォースで戦闘経験を積んだ者が多数含まれていました。

彼らは結成と同時に、ブティタウン、ラティダウン、マウンドーの各郡区から成る「アラカン北部」というムスリム自治国家の設立を求めるダボリ・チャウン宣言を発表しました。この宣言では、ビルマ連邦の管轄下に置かれつつも、この地域独自の軍隊（アラカン北部・ムスリム連隊）の結成、ウルドゥー語の地域言語および教育言語としての導入（ビルマ語は国語）、地元ムスリムからの政府職員任命、非ムスリム少数派への公正な扱いなどを要求しました。また、特定の条件のもと、ビルマ政府との協定締結やムジャーヒディーンメンバーへの大赦を求めました。

活動と戦闘

ムジャーヒディーンとミャンマー軍（国軍）との最初の衝突は、1948年5月15日のポンドーピンで発生し、ムジャーヒディーンが勝利しました。その後、マウンドー占領を目指しましたが、国軍の増援部隊によって阻止され、同年11月に撤退しました。同月末の待ち伏せ攻撃も失敗に終わりました。しかし、1949年2月に国軍がカレン民族同盟（KNU）掃討のためラカイン州から撤退すると、ムジャーヒディーンは再び勢力を拡大。1950年4月までにラカイン北西部を制圧し、東パキスタンのテクナフに拠点を築きました。

彼らはパキスタンへの忠誠を示し、支配下の村々にパキスタン国旗を掲げました。徴兵や徴税を行う際には、「ラカインにムスリム国家ができればカシミールを取り戻せる」と主張したといいます。国軍撤退後の掃討作戦は、地元のラカイン族で構成されたビルマ領土部隊（BTF）とチン・ライフル部隊が担当しましたが、BTFによるムスリムへの不品行が問題視されました。

住民への影響と難民

戦闘が続く中で、国軍とムジャーヒディーン双方による住民への徴兵・徴税や虐待が行われました。これに耐えかねた多くのムスリム住民が、ナフ川を渡って東パキスタンへ避難しました。1949年1月までにその数は約5,000人に達し、パキスタン政府は難民キャンプを設置しました。東パキスタンの人々は、同胞が仏教徒から迫害されているとしてムジャーヒディーンや難民に同情的でしたが、実利的な側面もありました。ミャンマー政府が東パキスタンへの米輸出に高関税を課していたため米価格が高騰していましたが、ムジャーヒディーンは米を密輸して資金源とすると同時に、東パキスタンに比較的安価な米を提供しました。ラカインの米農家も、政府より高値で買い取るムジャーヒディーンに喜んで米を売却したとされ、密輸船がパキスタン警察に護衛されていたという話もあります。

和平交渉と「ロヒンギャ」概念の出現

ムジャーヒディーンの活動が長期化するにつれて、ラカインのムスリム全体の評判は悪化の一途をたどりました。「パキスタン人がラカインに流入している」「ムジャーヒディーンが共産党と協力して解放区を設けようとしている」といった扇動的な主張が広まり、独立アラカン議会グループというラカイン族政党が、ムジャーヒディーンをシャン州の国民党軍より危険視する見解を示すなど、緊張が高まりました。

和平への試みも行われました。1949年10月、ラカインのムスリム議員らによる和平使節団がムジャーヒディーンに武装解除を働きかけましたが失敗。逆に使節団メンバーが政府当局に逮捕される事態も発生しました。1950年2月には、ウー・ヌ首相らがムジャーヒディーン代表団と会談し、武装解除を条件にダボリ・チャウン宣言の検討や難民問題の解決を提案しましたが、合意には至りませんでした。

こうした状況下で、独立前からラカインに居住するムスリムの指導者層の間では、ムジャーヒディーンとの区別を図るために、新たなアイデンティティの再定義が必要であるという認識が高まりました。これが、後に「ロヒンギャ」という民族名称が創出されるきっかけの一つとなりました。

組織の衰退と終焉

1950年10月11日、リーダーのジャファル・カワルが仲間に暗殺され、カシムが後任となりました。しかし、カシムにはジャファル・カワルのようなカリスマ性や人気がなく、組織はすぐに二つに分裂しました。

1954年11月、国軍は大規模な掃討作戦「モンスーン作戦」を開始し、ナフ川沿いのムジャーヒディーン拠点を次々と制圧しました。この頃には、ムジャーヒディーンは密輸や略奪を行う無法者集団と化しており、住民の支持を失っていました。地元のムスリムが「義勇軍」を組織して国軍に協力するほどでした。カシムは東パキスタンへ逃亡し、組織は事実上壊滅しました。カシムはその後パキスタンで逮捕されましたが、ミャンマーには送還されず、釈放後はチッタゴンで実業家として生活し、地元では英雄視されていたと言われています。

ムジャーヒディーン鎮圧後、ウー・ヌ首相らはラカイン北部を訪問し、「ロヒンギャ」をミャンマーの土着民族として認め、国民としての平等を約束しました。1958年には、ネ・ウィンの選挙管理内閣が国境地域管理局を設置し、国境警備と残党掃討に当たりました。1959年には厳格な不法移民取締りが行われ、多数のムスリムが東パキスタンへ避難しました。

1961年5月、ムスリム議員の要求に応じる形で、政府はマウンドー、ブティダウンを含むマユ辺境行政区（MFD）を設置しました。これはムスリム自治というより、反乱軍や密輸業者、不法移民の取り締まりを主な目的とした政府直轄の行政機構でしたが、これによって「アラカン北部」樹立を掲げていたムジャーヒディーンの存在意義は薄れました。そしてMFD設置直後の同年7月4日、残存兵約300人が政府に降伏し、組織は終焉を迎えました。

その後の試み

1972年7月15日、サニ・ジャファルという人物がムジャーヒディーンの残党を再結集し、ロヒンギャ解放党（RLP）としてブティタウン近郊で活動を再開しました。彼らはアラカン共産党などと共闘し、第三次印パ戦争後の兵器入手容易さもあり、兵力は一時2,500人にまで拡大しました。しかし、1974年の国軍大規模作戦によりサニ・ジャファルを含む幹部がバングラデシュへ逃亡し、再び壊滅しました。ムジャーヒディーンを名乗る組織の活動は、この試みをもってほぼ途絶えることになります。

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