ムーアサイド組曲

『ムーアサイド組曲』（A Moorside Suite）H.173は、著名な英国の作曲家グスターヴ・ホルスト（Gustav Holst）によって、英国式ブラスバンドのために書かれた作品です。

概要

本作は1927年、英国放送協会（BBC）と全英ブラスバンド選手権大会の委員会からの共同委嘱を受けて作曲されました。翌年の選手権大会決勝における課題曲（Test Piece）として、特定の目的のために依頼されたものです。

1928年9月29日、ロンドンの水晶宮（Crystal Palace）で開催された選手権大会で初めて演奏されました。この初演は聴衆や評論家から高い評価を得、エドワード・エルガーの『セヴァーン組曲』やレイフ・ヴォーン・ウィリアムズの序曲『ヘンリー五世』といった、英国ブラスバンド音楽の創成期を飾る傑作群と並び称される重要な作品となりました。

ホルスト自身もこの大会に審査員として参加しており、課題曲であった自身の作品が繰り返し演奏されるのを15回にわたって耳にしました。その高い演奏水準に深く感銘を受け、大会主催者であるジョン・ヘンリー・アイルズ（John Henry Iles）に称賛の手紙を送ったことはよく知られています。この年の大会で優勝を勝ち取ったのは、ウィリアム・ハリウェル（William Halliwell）が指揮するブラック・ダイク・ミルズ・バンド（Black Dyke Mills Band）でした。

『ムーアサイド組曲』は、その魅力から様々な編成への編曲が数多く存在します。作曲者自身による編曲としては、1932年に完成した弦楽合奏版や、未完に終わったものの第2楽章途中まで存在する吹奏楽版があります。また、ゴードン・ジェイコブ（Gordon Jacob）は1952年に管弦楽編曲を手がけたほか、第3楽章のみを独立させた吹奏楽編曲『ムーアサイド行進曲』（Moorside March）を1960年に出版しています。さらに、デニス・ライト（Denis Wright）による吹奏楽編曲も1937年に書かれ、1983年に再発見されています。これらの編曲は、原曲が持つ音楽的な価値の高さを物語っています。

楽曲構成

本作は全3楽章で構成され、演奏時間は約13分程度です。ホルストの他の組曲、例えば『吹奏楽のための第二組曲』のように既存の民謡を直接使用しているわけではありませんが、英国の民謡が持つ独特の音楽語法や旋律の雰囲気を巧みに採り入れています。

1. スケルツォ（Scherzo）

アレグロ、変ロ短調（ドリア旋法）の6/8拍子で書かれています。ホルストの『セント・ポール組曲』第1楽章を思わせるような、活気に満ちたジーグ風の音楽です。冒頭にコルネットに現れる主題は、その後カノンとして扱われます。変ロ長調の中間部（トリオ）では、スケルツォ部から派生したファンファーレのような動機の上に、ゆったりとした和声的な旋律が歌われます。

2. 夜想曲（Nocturne）

アダージョ、ヘ短調（エオリア旋法）の4/4拍子。二部形式による、静かで内省的な緩徐楽章です。コルネットの美しい独奏から始まり、それに応えるかのようにフリューゲルホルンとテナーホルンが歌います。続くハ長調の部分では、バンド全体の最弱音（ピアニッシモ）によって、敬虔なコラールが厳かに奏されます。これら二つの要素が繰り返された後、最後に再び独奏楽器群が残り、静かに消え入るように終わります。

3. 行進曲（March）

アレグロ、変ロ短調の2/2拍子。力強く堂々とした行進曲と、それに対比される穏やかな変ロ長調のトリオが特徴的です。ホルストの『吹奏楽のための第一組曲』の行進曲と同様に、推進力のあるリズムと歌謡的な旋律が効果的に組み合わされています。導入部の終盤には、マザー・グースの中でも古い起源を持つとされる童謡「コオル老王」（Old King Cole）の結びのフレーズが引用されており、ユーモラスな一面も垣間見えます。

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