メナンドロス (作家)

メナンドロス（紀元前342年 - 紀元前292/291年）は、古代ギリシアの喜劇作家であり、ヘレニズム期における新喜劇の代表的な作者として知られています。

生涯

メナンドロスは、アテナイの名門の富裕な家庭に生まれました。父はアテナイの将軍・政治家であったディオペイテスであり、叔父には喜劇作家のアレクシスがいました。叔父アレクシスの影響は、メナンドロスの喜劇作品に色濃く反映されたと考えられています。

哲学者・博物学者のテオプラストス（アリストテレスの後継者）とは親友であり同僚、時には弟子でもありました。また、アテナイの独裁者であったファレロンのデメトリオスとも親交があり、エジプト王プトレマイオス1世の後援も受けていました。プトレマイオス1世はメナンドロスを宮廷に招こうとしましたが、メナンドロスはこれを辞退し、愛人であるグリセラと共にピレウスの別荘で隠遁生活を送ることを選びました。

メナンドロスは生涯で数百もの喜劇を執筆し、レナイア祭典で7回もの受賞を果たしました。ディオニューシア祭での記録は不明確ですが、同様に素晴らしい成果を上げていたと推測されています。同時代の劇作家フィレモンとは、グリセラを巡って恋敵であり、劇作のライバルでもありました。メナンドロスは、人気を博していたフィレモンよりも自分が優れていると信じていたと伝えられています。アウルス・ゲッリウスによると、メナンドロスはフィレモンに「私より名声を得ていることが恥ずかしくないのか」と問うたという逸話が残っています。

また、メナンドロスの『迷信深い男』が、アンティファネスの作品からの盗作であると指摘されたことがありました。しかし、当時の演劇界では主題の変形は一般的であり、この疑惑は根拠のないものだったと考えられています。

後年、オウィディウスの注釈者は、メナンドロスが入浴中に溺死したと記しています。彼の功績を称え、地元の人々はアテナイへと続く道に彼の墓を築きました。この墓は、2世紀の地理学者パウサニアスによっても記録されています。

作品

メナンドロスはエウリピデスの作風を模倣し、日常生活に対する鋭い観察や心理描写、道徳的な格言を作品に取り入れました。彼の作品からは多くの諺が生まれ、「友のものは皆のもの」「神々が愛する人たちは若くして死ぬ（才子薄命）」「悪い付き合いは良い習慣を駄目にする（朱に交われば赤くなる）」などの言葉は、後世の新約聖書にも引用されています。また、初期の作品『酔っぱらい』では、政治家を批判するセリフが長く残りました。アリストファネスのような下品な言葉を多用することは、メナンドロスの作品では比較的少ない傾向にありました。

ローマ時代になると、メナンドロスの作風を模倣する作家が現れました。テレンティウスの作品には、メナンドロスの作品が公然と引用されたり、他の素材と組み合わされたりしました。プラウトゥスやカエキリウス・スタティウスもまた、メナンドロスの影響を強く受けた作家です。プルタルコスはメナンドロスとアリストファネスを対比し、クインティリアヌスはメナンドロスを「アッティカの語り部カリシウス」として賞賛しました。このように、メナンドロスは古代の作家たちから非常に愛され、多くの胸像が残されています。

メナンドロスは、作者がはっきりしない風刺詩の作者としても擬せられました。プトレマイオス1世との間で交わされたとされる手紙や議論がスーダ辞典に記されていますが、これらの多くはメナンドロスの作品ではないと考えられています。また、出典の不明な格言が集められ、「メナンドロスの一行格言」として道徳書としても刊行されました。

彼の作品がいつまで完全な形で存在していたかは定かではありませんが、ミカエル・プセルロスによると、11世紀のコンスタンティノープルでは23作品が閲覧可能だったとされています。しかし、時が経つにつれてメナンドロスの作品は忘れ去られ、19世紀末には、他の作家によって引用された断片しか知られていませんでした。アウグストゥス・マイネッケらは、古代の辞書編纂者が引用した1650もの格言を収集し、記録に残しました。

再発見

1907年、カイロで発見された古写本によって状況は一変しました。この写本には、『サモスの女』の大部分、『髪を切られる女』、『仲裁裁判』、『英雄』の一部など、いくつかの作品の断片が含まれていました。それ以前の1906年には、ミイラの棺に詰められていた張り子から、『シキュオーン人』の116行分の断片が発見されていました。

1959年に公刊されたボドマー・パピルスには、『デュスコロス』、『サモスの女』の大部分、『盾』の半分が含まれていました。1960年代の終わりには、2つのミイラの棺の詰め物に使われていたパピルスから、『シキュオーン人』の多くの部分が発見されました。これらの断片は、1906年に発見されたものと同じ起源を持つもので、明らかに再利用されたものでした。

その後も、パピルスの断片の発見と公開が続いています。しかし、完全な形で残っている作品は存在せず、コロスの内容も不明なままです。ギリシア新喜劇の時代になると、コロスは劇の内容とは関連性が薄くなり、酔っぱらいの一団が通り過ぎる場面に登場するような形式的なものに変化しました。

多くの作品は、男女が結婚するというハッピーエンドで終わりますが、一部の作品では、性暴力によって生まれた子供が結婚のきっかけとなっているものもあります。当時のアテナイの法律では、姦通よりも性暴力の方が罪が軽かったため、より軽い罪で起訴されることもあったそうです。『エピトレポンテス』や『サミア』がその例です。

現存する作品

デュスコロス（人間嫌い、気むずかし屋）
アスピス（楯）
エピトレポンテス（辻裁判、調停裁判）
ペリケイロメネー（髪を切られた女、髪を切られる女）
サミア（サモスの女）
シキュオーニオイ（シキュオーン人）
その他、断片

日本語訳

『ギリシア喜劇 第2巻』 人文書院、1961年
* 『ギリシア喜劇全集 第5・6巻 メナンドロスI・II』 岩波書店、2009-2010年

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