メニル・コレクション

メニル・コレクションは、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストンに位置する美術館で、ドミニク・ド・メニルとジャン・ド・メニル夫妻が収集した美術コレクションを基盤としています。そのコレクションは、夫妻の個人的な情熱と審美眼によって築き上げられ、20世紀美術を中心に、シュルレアリスム、抽象表現主義、ポップアートなど、幅広いジャンルを網羅しています。

コレクションの起源

ドミニク・ド・メニルは、油田探査企業シュルンベルジェの創設者コンラッド・シュルンベルジェの娘として生まれました。彼女は銀行家のジャン・ド・メニルと結婚し、第二次世界大戦中にナチス・ドイツの占領を逃れてアメリカに亡命、ヒューストンに定住しました。夫のジャンはシュルンベルジェ社の重役となり、ドミニクは父の遺産を基に美術品の収集を始めました。夫婦は数十年にわたり、絵画、彫刻、版画、ドローイング、写真、貴重書など、15,000点に及ぶ作品を収集しました。特に、20世紀初頭から半ばにかけてのシュルレアリスムや前衛美術に焦点を当て、イヴ・タンギー、ルネ・マグリット、マックス・エルンスト、マン・レイ、マルセル・デュシャン、アンリ・マティス、パブロ・ピカソなど、著名な芸術家の作品を数多く所蔵しています。また、ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、マーク・ロスコ、ロバート・ラウシェンバーグ、サイ・トゥオンブリーといった、戦後アメリカの抽象表現主義やポップアートの作品も幅広くコレクションに加えました。

美術館の建築と構成

美術館本館は、1987年に建築家レンゾ・ピアノの設計によって開館しました。ピアノは、自然光を最大限に活用するデザインを重視し、展示室の天井には、天窓とルーバーを組み合わせた独自のシステムを採用しました。これにより、柔らかい自然光が展示空間全体を包み込み、作品の魅力を引き立てています。

メニル・コレクションの敷地内には、本館の他に、いくつかの付属施設があります。1995年に開館したサイ・トゥオンブリー・ギャラリーもピアノの設計によるもので、著名な抽象画家サイ・トゥオンブリーの作品を展示しています。また、ダン・フレヴィンのインスタレーションを展示したリッチモンド・ホール、ビザンティン・フレスコ・チャペル美術館も敷地内にあります。ビザンティン・フレスコ・チャペル美術館には、13世紀のキプロス島の聖堂から移された貴重なフレスコ画が収蔵されています。さらに、一般公開されている図書館も併設されており、美術研究の拠点としても機能しています。

ビザンティン・フレスコ・チャペル美術館

ビザンティン・フレスコ・チャペル美術館は、本館から徒歩数分の場所に位置し、13世紀のキプロス島の聖堂に描かれていたフレスコ画を展示しています。これらのフレスコは、キプロス島の聖堂から盗難され、その後、ドミニク・ド・メニル夫人が買い取って修復し、美術館に収蔵されました。このフレスコ画は、西半球においてビザンティン時代の無傷のフレスコ画が見られる唯一の場所とされています。

ロスコ・チャペル

メニル・コレクションの近隣には、ロスコ・チャペルがあります。このチャペルは、デ・メニル夫妻の依頼によって設立された超宗派の礼拝堂であり、アメリカの抽象画家マーク・ロスコの作品で装飾されています。ロスコは、1964年にデ・メニル夫妻から依頼を受け、宗教や宗派を超えた瞑想空間を構想しました。チャペルの中央には天窓が設けられ、自然光が内部に差し込み、静かで厳かな雰囲気を醸し出しています。ロスコは、当初の設計者であるフィリップ・ジョンソンとの意見の相違から、何度か設計者を変えましたが、チャペルの完成を見ることなく自殺しました。

チャペルの入口には、さまざまな宗教の聖典が展示され、多文化共生へのメッセージが込められています。また、チャペルの外には、バーネット・ニューマンの彫刻作品「折れたオベリスク」が設置されています。この作品は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに捧げられたものです。

メニル・コレクションは、単なる美術館にとどまらず、芸術、歴史、宗教、そして社会的なテーマを総合的に探求する複合施設として、多くの人々に感動とインスピレーションを与え続けています。

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