メネリク1世

メネリク1世：伝説の初代エチオピア王

メネリク1世（Menelik I）は、「知恵の息子」を意味するエブナ・ラ・ハキムとも呼ばれ、エチオピアの初代王と伝えられる伝説的な人物です。紀元前10世紀頃に存在したとされ、古代イスラエルのソロモン王とシバの女王マーケダーの間に生まれたとされています。

伝説と経緯

メネリク1世は、現在のエリトリアにあたるハマシアンで誕生し、成長後にエルサレムを訪問。父であるソロモン王から歓待を受けました。ソロモン王は彼にイスラエルの王位を継ぐよう勧めましたが、メネリク1世はこれを辞退。代わりに、ソロモン神殿にあった「契約の箱（聖櫃）」をエチオピアへ持ち去ったとされています。その後、母である女王マーケダーから王位を継承し、エチオピアはダビデ王の血を引く新たなイスラエル[[王国]]として始まったと伝えられています。

この物語は、エチオピアの民族的起源と王家の正当性を語る上で重要な役割を果たしています。特に、エチオピアの歴史書『ケブラ・ナガスト』にその詳細が記述されており、伝説の根拠となっています。

王家の正統性と『ケブラ・ナガスト』

エチオピアでは、メネリク1世の子孫が王位を継承するという考えが長く続きました。紀元前5世紀に興ったアクスム[[王国]]や、13世紀に成立したエチオピア帝国（ソロモン朝）の王たちは、自らがメネリク1世の直系の子孫であると主張し、その権威を正当化しました。1270年にイクノ・アムラクによって打ち立てられたエチオピア帝国では、『ケブラ・ナガスト』が国家事業として編纂され、メネリク1世の物語が民族のアイデンティティを形成する上で重要な役割を果たしました。この書物は、エチオピア版の『古事記』とも言える存在です。

しかし、これらの記述はあくまで伝説に基づくものであり、歴史的事実として確定されたものではありません。旧約聖書に登場するシバの女王の実在についても、考古学的裏付けがなく、エチオピア説とイエメン説が存在するなど、多くの謎に包まれています。また、旧約聖書自体には、ソロモン王とシバの女王の間に子供が生まれたという記述もありません。

「ソロモン王朝」の主張と現実

メネリク1世を始祖とするエチオピア帝国の王朝は、1974年のハイレ・セラシエ1世の廃位に至るまで、「ソロモン王朝」として紀元前10世紀から約3000年間存続したと主張されることがあります。しかし、実際に歴史的事実として確認できるエチオピア皇帝家の人物は、13世紀のエチオピア帝国初代皇帝イクノ・アムラク以降の人物です。また、この王朝は近代において断絶した時期もあり、皇帝に実権がなく、臣下が実権を握っていた時期も存在します。

メネリク1世の物語は、伝説と歴史が複雑に絡み合った興味深いテーマです。エチオピアの歴史と文化を理解する上で、その重要性は非常に高いと言えるでしょう。

参考文献

蔀 勇造 訳『ケブラ・ナガスト : 聖櫃の将来とエチオピアの栄光』平凡社〈東洋文庫〉、2020年。ISBN 978-4-582-80904-6。
ゲエズ語著作『ケブラ・ナガスト』（“王たちの栄光”の意、作者不詳）の全訳、註釈および解説。

関連項目

メネリク2世
エチオピアの歴史

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