メル・パウエル

メル・パウエル（Mel Powell, 1923年2月12日 - 1998年4月24日）は、アメリカの作曲家であり、初期には卓越したジャズ・ピアニストとして名を馳せました。本名はメルヴィン・エプスタイン。ニューヨーク市のブロンクス区で、ロシア系ユダヤ移民の両親のもとに生まれました。

ジャズ・ピアニストとしての初期

10代の頃からニューヨークでプロのジャズ演奏家として活動を始め、その才能を開花させました。1941年から1942年にかけては、ベニー・グッドマンのために演奏や作曲・編曲を手がけ、その音楽的才能を高く評価されました。第二次世界大戦中には、1943年から1945年までグレン・ミラー率いる空軍バンドに所属し、終戦間際にはパリでジャンゴ・ラインハルトと共演するという貴重な経験もしました。戦後、グッドマン楽団に短期間復帰した後、ロサンゼルスに移り住み、映画やアニメの背景音楽制作にも携わりました。特に、「トムとジェリー」の音楽を手がけたことは、彼の幅広い才能を示す一例です。また、ハリウッド女優のマーサ・スコットと結婚し、1948年にはジャズ映画『ヒット・パレード』にピアニスト役で出演し、ベニー・グッドマンやルイ・アームストロングといったジャズ界の巨匠たちと共演しました。

作曲家への転身と現代音楽への傾倒

1940年代後半、筋ジストロフィーを発症し、演奏活動が困難になったことが、作曲に専念する転機となりました。1948年から1952年までイェール大学で作曲を学び、パウル・ヒンデミットに師事しました。当初は新古典主義的な音楽を作曲していましたが、次第に無調音楽や十二音技法に関心を抱き、現代音楽の作曲家としての道を歩み始めました。

教育者としての貢献とピューリッツァー賞受賞

1958年から1969年までイェール大学作曲科の教員を務め、イェール大学電子音楽研究所の創設にも尽力しました。また、アーサー・バーガーやベンジャミン・ボレツらとともに、音楽研究の学術雑誌『新音楽の展望』を創刊し、初代編集長の一人として、現代音楽の発展に貢献しました。

1969年にカリフォルニア州へ移住し、カリフォルニア芸術大学の教員に就任。音楽学科の学務主任、学部長、教授を歴任し、後進の指導に尽力しました。1990年には、2台ピアノと管弦楽のための協奏曲「デュプリケイツ」で、ピューリッツァー賞音楽部門を受賞しました。この作品は、第二次世界大戦の記憶と、パリで聞いたドビュッシーの音楽探究の逸話に触発されたもので、ロサンジェルス・フィルハーモニックの委嘱により、2年以上の歳月をかけて完成されました。

その他の受賞・評価と晩年

ピューリッツァー賞の他にも、アメリカン・アカデミー・オブ・アーツ・アンド・レターズ会員、グッゲンハイム・フェロー、ブランダイス大学からのクリエイティヴ・アーツ・メダル授与、アーノルド・シェーンベルク・センターの生涯名誉会員、クーセヴィツキー音楽財団によるアメリカ議会図書館のための委嘱など、数々の栄誉に輝きました。

現代音楽の作曲家として活動する傍ら、ジャズ界との繋がりも大切にしていました。1950年代にはベニー・グッドマンと再共演し、録音も残しています。1987年には、巡航船SSノーウェイ号で開催されたジャズ・フェスティバルで、ベニー・カーター、ハワード・オールデン、ミルト・ヒントン、ルイ・ベルソンといったジャズ界のレジェンドたちと共演し、その模様はアルバム『リターン・オブ・メル・パウエル』として発売されました。このアルバムには、約20分にわたるインタビューも収録されており、ジャズ界を離れた理由などが語られています。

メル・パウエルは、ジャズと現代音楽という異なる分野で才能を発揮し、20世紀の音楽シーンに大きな足跡を残しました。

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