ラグナル頌歌

『ラグナル頌歌』（ラグナルしょうか、Ragnarsdrápa）は、9世紀頃のノルウェーのスカルド詩人、ブラギ・ボッダソンによって作られたとされるスカルド詩です。この詩は、スカンディナヴィアの英雄ラグナル・ロズブロークの栄誉を讃える内容であり、『ラグナルの歌』や『ラグナルのドラパ』とも呼ばれています。

現存する『ラグナル頌歌』は、その全体像を知ることができません。13世紀前半にアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが著した詩の教本『エッダ』などに、断片的に引用される形で残されているのみです。しかし、この断片から、この詩が北欧神話の物語を含んでいる数少ないスカルド詩の一つであることがわかります。

スノッリは『エッダ』の第2部『詩語法』の中で、ヘイティやケニングといった詩で使う言い換えの例を示す際に、『ラグナル頌歌』から多数の詩句を引用しています。これらの引用は、半スタンザから数スタンザの長さで、その中に「ブラギ・ボッダソンがラグナル・ロズブロークのために作った頌歌」から引用したとする記述が見られます。この記述から、『ラグナル頌歌』が実際に存在したと考えられています。

『詩語法』には、上記の詩句以外にも、ブラギの作とされる詩句が多数引用されています。伝統的には、これらの詩句のほぼすべてが『ラグナル頌歌』の一部ではないかと考えられてきました。

この詩には、以下のような内容が含まれています。

ソルリとハムジルの、ヨルムンレク王に対する抗戦：この物語は、古エッダの『ハムジルの歌』にも残されています。
ヘジンとホグニの終わりなき争い（ヒャズニンガヴィーグ）
トールがヨルムンガンドを釣り上げようとした話：この物語は、古エッダの『ヒュミルの歌』やスカルド詩の『家の頌歌』などでも語られています。
ゲフィオンがスウェーデンから土を鋤き上げ、シェラン島を造った話：この物語の詳細は、スノッリの『エッダ』第1部『ギュルヴィたぶらかし』冒頭や、『ヘイムスクリングラ』内の『ユングリング家のサガ』の中で語られています。

ブラギ・ボッダソンは、9世紀頃の人物と考えられており、最古の著名なスカルド詩人として知られています。彼は、スウェーデン王ハウギのビョルンのためにこの詩を作ったとされています。伝えられるところによれば、ブラギはラグナルから贈られた装飾が施された楯を見ながら、この詩を作ったと言われています。

ブラギ・ボッダソンの『ラグナル頌歌』は、ウールヴ・ウガソンの『家の頌歌』、フヴィンのショーゾールヴの『長き秋』と並び、初期北欧詩の中で3篇のみ知られているエクフラシス（詩人が絵画などを見て言葉で描写した詩）のうちの1篇とされています。

研究者の間では、『ラグナル頌歌』に含まれる詩句の範囲について議論があります。ある研究では、特定の12詩句が『ラグナル頌歌』に含まれるとされています。また、トールの魚釣りに関する6詩句は別に分けられています。さらに、上記のいずれにも含まれない断片的な詩句も存在するとされています。

もう一度検索