リチャード・ガーネット (著作家)

リチャード・ガーネット

リチャード・ガーネット（Richard Garnett CB, 1835-1906）は、イギリスの著名な司書、学者、文筆家です。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、大英博物館図書館（現・大英図書館）の中心人物として活躍しました。父も同館の副管理長を務めた高名な歴史言語学者であり、ガーネットは学術的な家庭環境で育ちました。

1835年、スタッフォードシャーのリッチフィールドに生まれたガーネットは、ブルームズベリーで教育を受けました。1851年、父の死後、館長アントニオ・パニッツィの計らいにより、わずか16歳で大英博物館に司書補佐として入職しました。これは、ガーネット家の経済的支援という意味合いも含まれていました。

博物館でのキャリアは、ラベル貼りや書籍出納係から始まり、20年間の勤務を通じて膨大な蔵書に深く精通しました。1875年からは円形読書室のレファレンス・カウンターを担当し、その博識と人間味あふれる対応から「理想の司書」として多くの利用者から慕われました。カール・マルクスを含む当時の著名人からも信頼され、親交を結んだことが伝えられています。

司書としての実績は高く評価され、1881年には同館の総合目録編集責任者に就任。1890年には父と同じ図書館部門の責任者（Keeper of Printed Books）に昇進し、1899年に引退するまでその職を務めました。

ガーネットの才能は図書館業務に留まらず、優れた文筆家としても発揮されました。語学に堪能（ギリシャ語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語）で多数の文学作品を英訳。自身の詩作も行い、詩集や短編小説集『神々の黄昏』（1888年、1903年版増補）を発表しました。

彼の博識は、事典や百科事典への寄稿にも生かされました。『英国人名事典』や『ブリタニカ百科事典』（第9版・第10版）に、トーマス・カーライル、ジョン・ミルトン、ウィリアム・ブレイクらの伝記、および文学史関連の項目（「ドライデンの時代」「イタリア文学の歴史」など）を執筆しました。

文学研究では、シェリーの未発表詩を発見・編集し、『シェリーの遺物』（1862年）として出版した業績があります。彼の詩「珊瑚礁のあるところ」は、エルガーの歌曲集『海の絵』に収められ、1899年に初演されました。晩年にはチャールズ・ジェームズ・フォックス伝記も執筆（1910年出版）しています。

変わった趣味として占星術の研究があり、「AGトレント」のペンネームで論文も発表しましたが、健康上の理由で継続しませんでした。学術的な功績により、1901年にはアメリカ哲学協会の会員に選ばれています。

1906年4月13日に死去し、ロンドンのハイゲイト墓地東側に埋葬されました。ガーネットを知るジョセフ・マケイブは、彼が独自の「神秘的な宗教的信念」を持っていたと評しています。

彼の家族も英国の文化・文学界で活躍しました。息子エドワードは作家・評論家、その妻コンスタンスは著名な翻訳者、孫のデイヴィッドも作家です。

リチャード・ガーネットは、大英博物館図書館の発展に尽力するとともに、学者・文筆家として多様な分野で重要な業績を残しました。「理想の司書」として、また多才な文化人として、英国の学術・文学史に確かな足跡を刻んだ人物です。

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