リーブ・アリューシャン航空8便緊急着陸事故

1983年、アラスカ州沖で発生したリーブ・アリューシャン航空8便の緊急着陸事故は、航空史に残る奇跡的な出来事として知られています。この事故は、予期せぬプロペラの脱落という異常事態から始まり、乗員たちの卓越した操縦技術と不屈の精神により、全員が生還するという驚くべき結末を迎えました。

事故当日の状況

リーブ・アリューシャン航空8便は、ロッキード L-188 エレクトラ（機体番号：N1968R）を使用し、アラスカ州のコールド・ベイ空港からワシントン州のシアトル・タコマ国際空港へ向かう予定でした。乗員乗客は15名で、ベテランの運航乗務員3名（機長、副操縦士、航空機関士）、客室乗務員2名、そして10名の乗客が搭乗していました。

事故の経緯

1983年 6月8日、8便はコールド・ベイ空港を離陸。離陸直後、機長は異音に気づき、航空機関士にエンジンの確認を依頼しました。その直後、副操縦士は機体の異常な振動に気づき、機長は引き返すことを決断します。

その頃、客室からエンジンの様子を見ていた機関士と客室乗務員は、第4エンジンのプロペラが脱落する瞬間を目撃しました。脱落したプロペラは機体胴体を直撃し、客室の床に大きな穴を開けました。この衝撃で急減圧が発生し、コックピットは霧に包まれ視界が奪われ、機体は操縦不能に陥りました。

操縦不能の中、機体はベーリング海に向かって旋回し始めました。パイロットたちは手動操縦を試みましたが、操縦桿は動かず、自動操縦に切り替えることで、機体は辛うじて安定しました。しかし、機体は右に傾く癖がつき、エンジンの出力も制御できない状態でした。高度を下げた後、副操縦士はアンカレッジの運行管理者に緊急事態を宣言しました。

コールド・ベイ空港への帰還を試みたものの、機体の状況から断念。アンカレッジ国際空港への着陸を目指すことになりました。アンカレッジへ向かう道中には乱気流が起きやすいアリューシャン山脈がありましたが、他に選択肢はありませんでした。幸い、当時は乱気流が発生しておらず、8便は4時間をかけてアンカレッジ空港に到着しました。

到着直前まで手動操縦が不可能でしたが、パイロットたちの懸命な努力により、手動操縦が回復しました。着陸態勢に入ったものの、エンジン出力を絞ることができないため、オーバーランの危険がありました。そのため、第2エンジンを停止させ、推力のバランスを取ることを試みました。

1回目の着陸は速度が速すぎたため断念しましたが、2回目の着陸で、接地と同時に全エンジンを緊急停止し、非常ブレーキを使用し、機体は滑走路脇の溝に停止。乗員乗客15名全員が無事に生還しました。

事故原因

国家運輸安全委員会（NTSB）の調査により、プロペラの脱落原因は特定できませんでしたが、操縦不能の原因は判明しました。脱落したプロペラが胴体を直撃した際の急減圧により、客室の床が歪み、操縦ケーブルが床と機体フレームの間に挟まれたことが原因でした。自動操縦は油圧でケーブルを動かすため、機能しましたが、手動操縦はケーブルが挟まれていたため、不可能だったのです。手動操縦が回復したのは、パイロットたちが操縦桿を動かしたことでフレームが削れ、ケーブルが動く隙間ができたためでした。

その後

事故機は修理後に再び運用され、森林火災消防機として現在も活躍しています。機長は、他の乗員と共にロナルド・レーガン大統領から表彰され、引退するまでパイロットとして飛び続けました。副操縦士は、後年、テレビ番組で当時の状況を語っています。

映像化

この事故は、テレビ番組「メーデー!:航空機事故の真実と真相」や「奇跡体験!アンビリバボー」で映像化され、多くの人に知られることとなりました。

まとめ

リーブ・アリューシャン航空8便の緊急着陸事故は、航空機事故における数々の困難を乗り越え、乗員乗客全員が生還した奇跡的な事例です。この事故は、航空機の安全性、乗員の訓練、そして何よりも人間の不屈の精神の大切さを教えてくれます。

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