ルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテル

ルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテル（ラテン語: Lucius Caecilius Metellus Denter）は、紀元前320年頃に生まれ、紀元前283年に死去したとされる共和政ローマの軍人、そして政治家です。カエキリウス・メテッルス家の一員として、初期共和政ローマにおける重要な時期に公職を務めました。

公職歴と最期

彼の政治家としてのキャリアは、紀元前284年に執政官に選出されたことから始まります。執政官は共和政ローマにおける最高位の公職であり、国家の指導者として行政や軍事を司りました。翌紀元前283年にはプラエトルを務めました。プラエトルも重要な公職であり、主に司法や軍事を担当しました。

この紀元前283年は、彼にとって最後の年となりました。歴史家ポリュビオスの記録によると、この年、およそ10年ぶりにガリア人が大規模な軍勢を率いてイタリア半島に侵攻し、エトルリア地方の主要都市アッレティウム（現在のイタリア中部アレッツォ）を包囲しました。この事態に対し、プラエトルであったデンテルはローマ軍を率いてアッレティウムの救援に向かいました。

アッレティウム近郊で救援に駆けつけたローマ軍とガリア軍は衝突し、激しい戦闘となりました。しかし、このアレティウムの戦いはローマ軍の敗北に終わり、指揮官であったルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテル自身もこの戦場で命を落としたと伝えられています。ローマ軍は指揮官を失い、困難な状況に陥りました。

彼の死後、プラエトルの職はマニウス・クリウス・デンタトゥスが後任として引き継ぎました。ローマ側はガリア人に対し捕虜交換を申し出ましたが、これはガリア側に拒否されました。この拒否に対し、ローマ軍は報復行動に出て、ガリア人の勢力圏へ侵攻し、彼らをその土地から駆逐したと記録されています。

親族関係に関する推測

ルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテルの親族関係については、いくつかの歴史的な推測がなされています。

最も有力視されているのは、彼が紀元前251年と紀元前247年に二度執政官を務め、第一次ポエニ戦争において重要な役割を果たした同名の人物、ルキウス・カエキリウス・メテッルスの父親であったという説です。この息子とされる人物は、古代の記録において「Caecilius L. f. C. n. Metellus」という略記で識別されています。この略記は通常、ラテン語で「ルキウスの子（Lucii filius）、ガイウスの孫（Gaii nepos）」を意味すると解釈されます。この解釈が正しければ、ルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテルの父親はガイウス・カエキリウス・メテッルスであった可能性が非常に高いと考えられます。

ただし、これとは異なる親族関係の可能性も全くないわけではありません。一部では、彼が紀元前316年に護民官を務めたとされるクイントゥス・カエキリウスの息子、あるいは甥であったのではないかという見解も存在します。しかしながら、ローマ共和政の公職者に関する権威ある研究書であるT. R. S. Broughtonによる『The Magistrates of the Roman Republic』や、『ギリシア・ローマ伝記神話辞典』のような主要な文献には、この説を直接裏付ける明確な人名や記述は見出されていません。そのため、このクイントゥス・カエキリウスとの関連性については、確証が得られていない不確かな情報とされています。

ルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテルは、紀元前3世紀初頭という、共和政ローマがイタリア半島内での支配を確立しつつあった激動の時代に生きた人物であり、特にガリア人との戦いにおいてその最期を迎えたことで歴史に名を残しています。また、彼の家族関係は、後世の著名なカエキリウス・メテッルス家の人々とを結びつける重要な手がかりとして、研究者の間で議論の対象となっています。

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