アレティウムの戦い

アレティウムの戦い：共和政ローマとガリア人の激突

アレティウムの戦いは、紀元前283年頃に共和政ローマと、セノネス族を含むガリア人との間で繰り広げられた戦闘です。この戦いは、ローマとガリア人との間で発生した一連の紛争の一部であり、ローマがイタリア半島北部への支配を拡大していく過程における重要な出来事として知られています。

史料の限界と戦いの概要

この戦いに関する最も詳細な記述は、古代ギリシアの歴史家ポリュビオスによるものです。しかし、彼の記述もまた断片的であり、他の出来事に関する言及の合間に挿入される程度です。一方、ローマの歴史家アッピアノスは、この戦いについて全く触れていません。リウィウスの書物が現存していれば、より詳細な情報が得られた可能性がありますが、残念ながら現存していません。

ポリュビオスの記述によると、ガリア人がアレティウムを包囲し、救援に駆けつけたローマ軍を打ち破ったとされています。この戦いで、ローマ軍の司令官であったプラエトル、ルキウス・カエキリウス・メテッルス・デンテルが戦死しました。デンテルが戦死したことから、この戦いは彼が執政官を務めていた紀元前284年ではなく、翌年の紀元前283年の出来事と考えられています。

戦いの経過と結果

ポリュビオスの記録

デンテルの後任としてマニウス・クリウス・デンタトゥスが司令官に任命されました。彼はガリア人に対して捕虜の解放を交渉しようとしましたが、交渉に向かった使者が殺害されてしまいます。怒ったローマ軍は、セノネス族と激戦を繰り広げ、これを打ち破りました。

セノネス族は、北イタリアに住むガリア人の部族であり、ポリュビオスは、ローマ人がガリア人の支配領域をガリア・キサルピナと呼んでいたことを示唆しています。ローマ軍はセノネス族の領土を侵略し、住民の多くを殺害し、残りを追い払いました。そして、その地に植民地セナ・ガリカを設立しました。ただし、この戦いを指揮した人物については言及されていません。

この敗北を目撃したボイイ族は、同じ運命を辿ることを恐れ、エトルリア人に救援を求めました。連合軍はウァディモン湖近くでローマ軍を攻撃しましたが、ボイイ族の多くが逃亡し、エトルリア軍は壊滅しました。翌年、ボイイ族とエトルリア人の連合軍は再びローマ軍に挑みましたが、再び大敗を喫し、遂にローマに和平を求める使者を送りました。

アッピアノスの記録

アッピアノスも、ローマとガリア人との戦いについて記述していますが、彼の著作は断片的にしか残っておらず、十分な情報を得ることは困難です。彼は、紀元前283年に起きた出来事について触れていますが、具体的な場所までは特定していません。彼の記述は、主にローマの大使に降りかかった出来事と、ローマがアゲル・ガリクスに対して行った施策に焦点を当てています。

アッピアノスによると、ローマはセノネス族にのみ特別な使者を送りました。これは、セノネス族がローマと和睦していたにもかかわらず、反ローマ勢力に傭兵を提供していたため、その抗議のためでした。しかし、かつてエトルリアとの連合時にローマによって父を殺されたガリア人のブリトマリスが、この使者を殺害したとしています。

しかし、アッピアノスはブリトマリスが使者を切り刻んだと記していますが、実際には使者は囚われていたとの説もあり、アッピアノスの蛮族に対する偏見が窺えます。執政官プブリウス・コルネリウス・ドラベッラは、サビニ領とピケナムを経由してアゲル・ガリクスに急行し、セノネス族を徹底的に征服しました。男は皆殺しにし、女子供は奴隷とし、その地を荒廃させました。その後、故郷を失い傭兵となっていたセノネス族は、別の執政官ドミティウスに立ち向かいますが、敗北して絶望のあまり自害しました。

検証：食い違う記録

アッピアノスの記述は、ポリュビオスの記述と多くの点で食い違っています。アッピアノスはアレティウムの包囲と戦いについて言及しておらず、ブリトマリスと会った場所も不明です。もし、ブリトマリスの父がエトルリアとの連合軍として戦死したのであれば、それはウァディモン湖の戦いのことと考えられます。

ポリュビオスは、エトルリア・ガリア連合軍との再戦を紀元前284年としていますが、アッピアノスは紀元前283年の出来事としています。さらに、ポリュビオスが記述したアレティウムの包囲やローマ軍の捕虜についても、アッピアノスの記述には見られません。このため、戦いの正確な順序と場所については、多くの謎が残されています。

両者の記述をまとめると、以下のようになります。

ポリュビオス：アレティウムの包囲・戦い→アゲル・ガリクスの惨劇→ウァディモン湖の戦い→最終決戦
アッピアノス：ウァディモン湖の戦い→アゲル・ガリクスの惨劇→最終決戦（アレティウムの包囲・戦い無し）

戦果：失われたローマ軍の兵力

テキサス・テック大学のフォーサイス准教授は、アレティウムでのローマの敗北により、司令官1人と7人のトリブヌス・ミリトゥム、そして13000人の兵士が失われたと結論付けています。この結論は、ヒッポの聖アウグスティヌスとパウルス・オロシウスの著書に基づいています。ただし、これらの著書は、戦いから700年以上後の5世紀前半に書かれたものであり、その信頼性には注意が必要です。

これらの著書はキリスト教の聖職者によって書かれたものであり、異教時代に多発していた災厄がキリスト教によって改善されたことを示すことを目的としています。彼らの記述には、ルカニア人、ブルティウム人、サムニウム人、エトルリア人、そしてセノネス族の大連合について言及されていますが、史実とは異なる可能性があります。実際に、サムニウム人、エトルリア人、ウンブリイ族とセノネス族の連合であれば、第三次サムニウム戦争中に実現しています。これらの点から、彼らの記述の信憑性は低いと考えるべきでしょう。

聖アウグスティヌスとオロシウスの記述

聖アウグスティヌスは「ルカニア人、ブルティウム人、サムニウム人、エトルリア人、そしてガリア人セノネス族が一斉に反ローマで立ち上がり、まず使者を殺害し、プラエトルの指揮するローマ軍を打ち倒し、司令官と7人のトリブヌス、13000人の兵士が戦死した」と述べています。

また、オロシウスは「ドラベッラとドミティウスが執政官の年、ルカニア人、ブルティウム人、サムニウム人は、エトルリア人、ガリア人セノネス族と連合し、再びローマに反旗を翻そうとした。ローマはガリア人を思いとどまらせようとしたが、使節は殺害されてしまった。プラエトル、カエキリウスはこの無法に報いるため軍団を率い、これらの蜂起を鎮圧しようとしたが、ガリア・エトルリア連合軍に逆撃され、戦死した。7人のトリブヌスと多くの貴族が殺害され、13000人の兵士も同様に死を迎えた」と記しています。

まとめ

アレティウムの戦いは、史料の不足と矛盾により、その全貌を把握することが難しい戦いです。ポリュビオスとアッピアノスの記述を比較すると、戦いの順序や参加勢力、結果など、多くの点で食い違いが見られます。また、聖アウグスティヌスやオロシウスの記述も、その目的から史実とは異なる可能性があると考えられます。したがって、この戦いを正確に理解するためには、複数の史料を慎重に比較検討し、批判的に解釈する必要があります。

注・出典

参考文献

アッピアノス, 『ローマ史』 I: v. 1 , (ローブ・クラシカルライブラリー) Loeb (1989) ISBN 978-0674990043
フォーサイス, A Critical History of Early Rome: From Prehistory to the First Punic War, カリフォルニア大学出版局 (2006) ISBN 978-0520249912
オロシウス, 『異教徒に反論する歴史』, リヴァプール大学出版局 (2010) ISBN 978-1846312397
ポリュビオス, 『歴史』, (Oxford World's Classics) オックスフォード大学出版局 (2010) ISBN 978-0199534708
アウグスティヌス, 『神の国』, Hendrickson (2009) ISBN 978-1598563375

外部リンク

Appian's Roman History at Livius.org
* Wiki Classical Dictionary: Appian

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