ル・ヴェルネ収容所

ル・ヴェルネ収容所：多国籍の人々が収容された過酷な場所

ル・ヴェルネ収容所（Camp du Vernet）は、フランス南部アリエージュ県ル・ヴェルネに位置し、1939年から1944年の間に約4万人の人々が収容された強制収容所です。収容者の出身国は58か国にも及び、スペイン内戦からの難民、敵性外国人、反ナチス・反ファシズム運動家、ユダヤ人などが含まれていました。2019年には歴史的記念物に指定され、その歴史を今に伝えています。

歴史的背景

ル・ヴェルネ収容所の歴史は、1918年6月にフランス植民地軍兵士の宿泊施設として建設されたことに始まります。第一次世界大戦中はドイツやオーストリア＝ハンガリー帝国の捕虜収容所として使用され、戦間期には軍需品倉庫として利用されていました。フランスは戦間期に多くの移民や難民を受け入れていましたが、1930年代にナチス・ドイツの台頭とスペイン内戦の勃発により、難民が急増し、政府は移民規制を強化せざるを得なくなりました。

スペイン内戦の影響

スペイン内戦の激化により、1936年9月以降、フランスに多くの難民が押し寄せました。フランコ率いる反乱軍の攻撃によって、バスク地方が制圧されると、約10万人の民間人や兵士がフランスに亡命しました。1939年1月には、タラゴナやバルセロナが陥落し、さらに難民が流入しました。ダラディエ政権は国境を再開しましたが、結果として約50万人の難民がフランス各地の収容所に収容されました。ル・ヴェルネ収容所には、スペイン共和国軍兵士、共産主義者、社会主義者、無政府主義者、トロツキスト、国際旅団の元義勇兵などが収容されました。

1938年11月には外国人取締法が制定され、「国防・治安を脅かすおそれのある個人」を敵性外国人として収容する方針が打ち出されました。これにより、フランス在住のドイツ人、スペイン、イタリア、ユーゴスラビア出身の共産主義者、白系ロシア人、ユダヤ人、ロマなども収容所に入れられました。ル・ヴェルネ収容所は、南仏に存在した大規模収容所の中でも、最も規律が厳しく、収容者の待遇も過酷でした。

第二次世界大戦下のル・ヴェルネ収容所

1939年9月、ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発。1940年5月にはドイツ軍がフランスに侵攻し、パリが陥落。フランスはドイツ占領地域とヴィシー政府統治地域に二分されました。ル・ヴェルネ収容所には、ユダヤ人が収容されるようになり、1942年以降はユダヤ人や政治犯の一時収容所となりました。収容者は、ジェルファ強制収容所、オルダニー強制収容所、アウシュヴィッツ強制収容所、ダッハウ強制収容所などに送られました。

1944年6月15日、ル・ヴェルネ収容所は一旦閉鎖され、最後の収容者403人がトゥールーズに移送され、そこからドイツの強制収容所へと送られました。その後、収容所はドイツ軍捕虜とトルキスタン部隊兵士の抑留所となりました。収容所はA、B、Cの3つの区画に分けられ、それぞれ法令違反者、政治犯、被疑者が収容されました。

記憶の継承

現在、収容所の建物は残っておらず、入口の門、給水塔、線路が残るのみです。1970年代に最後のバラックが解体され、現在は畑地となっています。収容所から移送列車が出ていた線路上には、復元された移送車両が置かれています。この車両内には、1942年9月1日にル・ヴェルネ収容所からアウシュヴィッツに送られた2歳から17歳までのユダヤ人の子どもの名前が書かれた銘板があります。

収容所隣接の墓地は、戦後雑草に覆われ放置されていましたが、1970年代に元収容者たちが保存を呼びかけ、整備されました。2010年からは毎年11月1日に慰霊祭が行われ、菊の花が供えられます。この墓地には、収容所で亡くなった215人のうち152人が埋葬されており、そのうち65人はスペイン人です。ドイツ人の墓は、戦後母国に移されました。

2019年3月5日、ル・ヴェルネ収容所は歴史的記念物に指定され、その歴史を後世に伝えるための取り組みが行われています。

収容された著名人

ル・ヴェルネ収容所には、多くの著名人が収容されました。その一部を以下に示します。

マクス・アウブ（劇作家、小説家）
アーウィン・ブルーメンフェルド（写真家）
フランツ・ダーレム（政治家）
レオン・デグレル（ファシズム指導者）
リオン・フォイヒトヴァンガー（小説家、劇作家）
パウル・フレーリヒ（歴史学者、随筆家）
クルト・ゴールドシュタイン（脳病理学者）
アーサー・ケストラー（ジャーナリスト、小説家）
ヘルマン・ラングバイン（歴史学者）
ルドルフ・レオンハルト（作家）
ルイージ・ロンゴ（政治家）
ハインリヒ・ラウ（政治家）
グスタフ・レグラー（作家）
フリードリヒ・ヴォルフ（医師、作家、政治家）
ラースロー・ラドヴァーニ（社会学者）
ルイス・エムリッヒル（ジャーナリスト、作家）
ジャック・アイク（映画監督）
トマス・サルティ（挿絵画家）

ル・ヴェルネ収容所は、第二次世界大戦という激動の時代に、人々の運命が翻弄された場所の一つです。その過酷な歴史は、決して忘れられてはなりません。

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