ルーシ族

ルーシ族とは：起源と論争の歴史

ルーシ族とは、中世の東ヨーロッパにおいて、ルーシ・カガン国、ノヴゴロド公国、キエフ大公国を建国したヴァリャーグの一派を指す呼称です。彼らは東スラヴ人によってそのように呼ばれていました。

起源をめぐる二つの説：ノルマン説 vs 反ノルマン説

ルーシ族の民族系統については、ノルマン説と反ノルマン説という二つの主要な学説が存在し、長年にわたり論争が続いています。

ノルマン説

ノルマン説は、ルーシ族がヴァイキング、すなわちノルマン人（スウェーデン人）の一派であると主張します。この説の支持者は、原初年代記などの歴史的記録に、彼らがノルマン人でありヴァイキングであったことを示す記述が見られることを根拠としています。

また、ルーシ族の指導者とされるリューリクや、ノヴゴロドの古名であるホルムガルドなど、固有名詞が古ノルド語に由来することも、ノルマン説の根拠の一つです。9世紀のフランク王国の年代記「サンベルタン年代記」には、自らを「Rhos」と名乗るヴァイキングの一団が登場しますが、ノルマン説の支持者は、この「Rhos」がルーシ族の初期の姿であると主張しています。

反ノルマン説

一方、反ノルマン説は、ルーシ族がノルマン人ではなく、東スラヴ人の一部族であると主張します。この説の支持者は、帝政ロシア時代から、スラヴ民族の独自性を強調する民族主義的な立場から、ノルマン起源説に異議を唱えてきました。

彼らは、ルーシ族という名称が、特定の民族名ではなく、東スラヴ人の部族連合の一つであるポリャーネ族の国号に由来すると主張します。また、原初年代記などの歴史的記録は、伝説的な要素が多く、史実を正確に反映していないと批判します。ノルマン説が根拠とする固有名詞についても、スラヴ語起源である可能性を指摘しています。

ルーシ族の活動

ルーシ族は、武装した船団を率いて河川を遡上し、交易や略奪を行いました。原初年代記によれば、リューリクは862年頃にノヴゴロドを征服し、ノヴゴロド公国を建国したとされます。その後、リューリクの部下であるアスコルドとジールがキエフを支配し、後にリューリクの親族であるオレグがキエフを奪い、キエフ大公国を樹立しました。彼らは「ヴァリャーギからギリシアへの道」と呼ばれる水陸交易路を確立し、東ローマ帝国との交易を盛んに行いました。

ルーシ族のその後

後期ルーシ族は、急速にスラヴ化し、東スラヴの言語や文化を受け入れていきました。キエフ大公スヴャトスラフ1世は、東スラヴ人の「リューリク朝」の創始者とされ、彼の時代にルーシ族は東スラヴ人としてのアイデンティティを確立しました。しかし、彼の子孫であるヤロスラフ1世の時代には、キエフ・ルーシは完全に東スラヴ人の国家となり、ルーシ族の痕跡は薄れていきました。

結論：未だ解明されないルーシ族の謎

ルーシ族の起源や活動については、ノルマン説と反ノルマン説の間で意見が分かれており、未だに決定的な結論は出ていません。中世の記録の信憑性や考古学的な証拠の解釈など、多くの課題が残されています。しかし、ルーシ族が東スラヴ世界の歴史に大きな影響を与えたことは間違いありません。彼らの活動は、後のロシア、ウクライナ、ベラルーシといった東スラヴ諸国の形成に繋がっていきました。

ルーシ族の謎は、東スラヴ世界の歴史を理解する上で重要なテーマであり、今後の研究の進展が期待されます。

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