ロシアの農奴制

ロシア農奴制の歴史

ロシアの農奴制は、モスクワ大公国時代から帝政ロシアにかけて存在した、農民が土地に縛られ、移動の自由を制限された制度です。その歴史は、段階的に強化され、最終的には1861年の農奴解放令によって廃止されました。以下に、その変遷を詳しく見ていきましょう。

モスクワ大公国時代

中世ロシア社会では、収穫後の「聖ユーリーの日」前後に農民の移動が認められていましたが、負債のある農民は移動できませんでした。15世紀に入ると、富裕な領主が負債を肩代わりして農民を引き抜く行為が広まり、中小領主の経営を圧迫しました。イヴァン3世は、1497年法典で農民の移動を「聖ユーリーの日」の前後2週間に制限しました。

ロシア・ツァーリ国時代

イヴァン4世も1550年に同様の法典を定め、中小領主の経済安定を図りました。しかし、イヴァン4世の治世末期には「聖ユーリーの日」の規定は廃止され、1580年の勅令で農奴制の基礎が確立しました。1581年と1582年は農民の移動が禁止され、逃亡農民の捜索権が領主に認められました。1649年の「会議法典」では、逃亡農民の捜索期限が無制限となり、農民の土地への緊縛が完成しました。この時期に、農奴制が本格的に成立しました。

農民は土地への緊縛に抵抗し、南部に逃亡する者も多くいましたが、ドン・カザークは逃亡者の引き渡しに応じないことが多かったため、ロマノフ朝は悩まされました。1670年から1671年にかけては、ドン・カザークのスチェパン・ラージンによる大規模な反乱が起こりました。

帝政ロシア時代

「ロシアの西欧化」と農奴制

ピョートル1世は、西欧化を推進する財源確保のため、農奴制を強化しました。1705年には徴兵が始まり、1719年には人頭税が導入されました。これにより、農民は世襲的に土地に緊縛され、人頭税の財源として利用されました。農村は疲弊し、農民の逃亡が相次ぎました。農民には、国有地農民、修道院農民、貴族領農民がありましたが、いずれも農奴制の下に置かれていました。彼らは移動の自由や結婚の自由を持たず、領主裁判権に従わなければなりませんでした。

「エカチェリーナ改革」と農奴制

エカチェリーナ2世の時代は、「貴族の天国、農民の地獄」と言われるほど、両者の格差が拡大した時代でした。エカチェリーナ2世は、農奴制の緩和を試みましたが、貴族の反対により失敗しました。1766年にはイギリスと通商条約を結び、原材料の輸出関税を引き下げましたが、これは国内の労働力抑圧を強化し、農民の大量逃亡と反乱を招きました。1773年から1775年にかけては、プガチョフの乱という大規模な農民反乱が起こりました。

エカチェリーナ2世の治世下では、農民は奴隷に近い状態に置かれ、売買の対象にもなりました。新聞広告には農奴の売買広告が掲載され、農奴は家族と引き離されて売買されたり、抵当に入れられたりしました。地主は農奴を自由に扱い、不服を申し立てることも許されませんでした。地主は、働けなくなった農奴を「シベリア送り」にする権限さえ持っていました。一方で、貴族は特権階級となり、租税・軍務・体刑を免除され、所領や農奴を完全な私有財産とすることができました。

啓蒙思想家のアレクサンドル・ラジーシチェフは、農奴制の実態を告発する著書を出版しましたが、エカチェリーナ2世によってシベリアへ流刑に処されました。

農奴解放令

農奴制はロシアの農業発展を阻害し、農民の反乱を助長していました。1825年には、デカブリストの乱が起こり、農奴制と専制政治に対する批判が始まりました。文学者たちも農奴制を批判し、イワン・トゥルゲーネフの『猟人日記』は、後の農奴解放に大きな影響を与えました。

ニコライ1世は、農奴の待遇改善に資する法律を制定しましたが、農奴解放には至りませんでした。1856年のクリミア戦争の敗北は、アレクサンドル2世に近代化の必要性を痛感させました。1861年、アレクサンドル2世は農奴解放令を発布し、農奴に人格的な自由と土地を与えましたが、土地は無償ではなく、買戻金を支払う必要があり、多くの農民は依然として困窮しました。農奴解放は、農村プロレタリアを創出し、ロシア資本主義発展の基礎を築く一因となりました。

世界資本主義の中でのロシア農奴制

イマニュエル・ウォーラーステインらの世界システム論によれば、16世紀から18世紀にかけての東ヨーロッパでは、西欧市場向けに農産物を生産するため、農奴制が強化されました。ロシアは、資本主義的世界経済の中で「周辺」として組み込まれ、その結果、農業生産力を増大させるために農奴制が強化されたと解釈されています。

ロシアの農奴制は、単なる「抑圧と抵抗」というだけでなく、世界資本主義の構造の中で理解する必要があるでしょう。それは、ロシア社会が革命へと向かう一因ともなりました。

この文章は、ロシアの農奴制の歴史を包括的に解説したものです。制度の成立から解放まで、各時代の特徴と農民の生活状況、そして世界的な資本主義との関係を詳しく説明しました。この情報が、読者の理解を深める一助となれば幸いです。

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