ロマンス劇

後期ロマンス劇：シェイクスピア晩年の傑作群

後期ロマンス劇（The late romances）は、ウィリアム・シェイクスピアの晩年に書かれた作品群を指す分類です。単にロマンス劇（The romances）と呼ばれることもあります。このカテゴリーには、『ペリクリーズ』、『シンベリン』、『冬物語』、『テンペスト』などが含まれ、『二人の貴公子』が加わることもあります。この用語は、1875年にエドワード・ダウデンが著書『シェイクスピア：精神と芸術の批評的研究』で初めて使用しました。

喜劇からの独立

シェイクスピアの作品をまとめたファースト・フォリオでは、これらの作品は（『シンベリン』を除き）喜劇として分類されました。しかし、批評家たちはこれらの作品が従来の喜劇とは異なる点が多いことに気づき、ロマンス劇という新たなカテゴリーを設けることになりました。これらの作品は、中世のロマンス文学に似た要素を持ち、従来の喜劇とは一線を画すものでした。

ロマンス劇の特徴

シェイクスピアのロマンス劇には、以下のような共通の特徴が見られます。

救済の物語: 長い間離れ離れになっていた家族が再会し、ハッピーエンドを迎えるという救済の物語が展開されます。
ファンタジー要素: 魔法やその他のファンタスティックな要素が物語に織り込まれています。
デウス・エクス・マキナ: ギリシア神話やローマ神話の神々が、物語のクライマックスに登場し、状況を解決する役割を果たします（例：『シンベリン』のジュピター、『ペリクリーズ』のダイアナ）。
対照的な場面: 「文明的」な場面と「牧歌的」な場面が混在し、対比が際立たせます（例：『テンペスト』の紳士階級と島民）。
詩的な回帰: 初期作品の叙情的なスタイルへの回帰が見られますが、より円熟し、深みを増しています。

影響と独自性

シェイクスピアのロマンス劇は、17世紀初頭の演劇界における二つの大きな新情勢からも影響を受けています。一つは、ジョン・フレッチャーが創出し、ボーモント＆フレッチャーの初期の合作で展開された悲喜劇の革新です。もう一つは、ベン・ジョンソンとイニゴー・ジョーンズが主導した宮廷仮面劇の最先端をゆく会心作です。

これらの作品は、『十二夜』のような初期のシェイクスピア作品や、他の古典作家によるロマンス劇、あるいは牧歌劇といったジャンルとの共通点も多く見られます。しかし、シェイクスピア晩期の戯曲は、悲喜劇や仮面劇の要素と喜劇やロマンス文学、牧歌劇の要素を融合させながら、独自の雰囲気を保っています。混沌に陥ることなく、首尾一貫した構成をもち、観客を魅了する演劇作品に仕上がっています。

ロマンス劇の一覧

一般的にシェイクスピアのロマンス劇とみなされている作品は以下の通りです。

『ペリクリーズ』（1607 - 08年）
『シンベリン』（1609 - 10年）
『冬物語』（1610 - 11年）
『テンペスト』（1611年）
『二人のいとこの貴公子』（1612 - 13年）

これらの作品は、シェイクスピアの演劇的才能の集大成であり、今日でも多くの人々に愛されています。

関連項目

シェイクスピアの喜劇
問題劇
ファースト・フォリオ
イギリス・ルネサンス演劇

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