ローマ (ローマ神話)

女神ローマ：都市と国家を象徴する神

女神ローマ（Roma）は、古代ローマにおいて都市ローマ、ひいては国家そのものを人格化した女神です。アントニヌス・ピウス記念柱の基壇に描かれていることでも知られています。

女神ローマ成立の背景

女神ローマの起源は、紀元前3世紀に遡ります。紀元前280年-276年および紀元前265年-242年のローマの硬貨に、ヘルメットを被った女神が描かれており、これがローマ女神であるとする説がありますが、特定には至っていません。初期のローマ硬貨には、アマゾーンのような女性闘士が描かれたものもあり、ローマ女神の原型ではないかと考えられていますが、女神というよりも守護神（ゲニウス）に近い存在だったと解釈されています。

エンニウスは「祖国ローマ」をローマに擬人化し、キケロは彼女を「ローマ国家」と表現しましたが、いずれも「女神」としては扱っていません。ローマ神話においては、ローマという都市名からその家系が考案され、ギリシアの女神と結びつけられることで、女神としての性格を確立していきました。

ギリシア世界における受容

女神ローマへの信仰は、紀元前195年にスミルナで確立しました。これは、ローマとの同盟によってアンティオコス3世に対抗できたことが背景にあります。歴史家のMellorは、この信仰をギリシアや東方の君主制の伝統とローマ共和政の慣習を結びつけるための、宗教と政治を組み合わせた外交政策の一環と捉えています。ローマ国家を神聖なものとして人格化することで、その官職や共和国、都市が神聖で永遠のものであると認識させたのです。

アテナイやロドス島のような共和政都市国家では、Demos（一般大衆）を人格化した伝統的な信仰が存在したため、女神ローマを受け入れやすかったと考えられます。紀元前189年には、デルポイとリュキアで女神ローマの祭りが開催されました。女神ローマは、運動競技やヘレニズム文化全般の神聖な支援者として受け入れられ、祭りが頻繁に行われるようになりました。紀元前133年、アッタロス3世はペルガモンの人々と領土を女神ローマ（つまり共和政ローマ）に遺贈しました。これによりアジア属州が成立し、女神ローマへの信仰が急速に広まりました。

ヘレニズムにおける宗教では、男神には男性の神官、女神には女性の神官が仕えるのが一般的でしたが、女神ローマの神官は男性でした。これは、ローマの軍事力の強さを反映したものでしょう。女神ローマの神職は、他の神々の神職よりも高位とされていました。

アマゾーンが起源とされる女神ローマですが、ギリシアの硬貨に描かれる際は、ギリシアの女神のように城壁冠やフリギア風のヘルメットを被っています。時には何も被っていないこともあります。その後、ローマは（「誓い」の守護神としての）ゼウスや（「相互信頼」を人格化した）フィデースと結び付けられるようになりました。東方におけるローマ信仰は、ローマへの忠誠とローマによる庇護を求めるものでした。ローマ国家への敬意以外に、女神ローマを信仰する理由は特にありませんでした。レスボス島のMelinnoによる、女神ローマを称えるサッポー詩体の詩が残っています。しかし、共和政ローマ本体とギリシアより西の地域では、女神ローマへの信仰はほとんど見られませんでした。

女神ローマの神殿の遺跡は、地中海東部にわずかに残っています。4つの祭壇と、意図的に切断された像が1体発見されています。

ローマ皇帝崇拝との関係

ユリウス・カエサルは暗殺後、神格化され、ローマおよび東方植民地の守護神として信仰されました。カエサルの後継者であるアウグストゥスは、内戦を終結させ、プリンケプス（元首）となりました。紀元前30年頃、アジア属州やブリタンニアから、アウグストゥスを生きながら守護神として祀ることの許可を求める声が上がりました。共和政ローマではヘレニズム的な君主崇拝を軽蔑していましたが、明確な拒否は地方民や同盟国を怒らせる可能性がありました。そこで、「非ローマ人は女神ローマと共にならアウグストゥスを守護神として信仰してもよい」という見解が示されました。このために、2つの神殿が用意されました。女神ローマは、最初期の「皇帝崇拝」の形態に組み込まれたのです。あるいは、東方からの視点では、伝統的な女神ローマ信仰の上にアウグストゥス信仰が接木されたように生じたと考えられます。それ以降、女神ローマは皇帝やその配偶者の神聖性を引き立てる役割を担うことになりましたが、ギリシアの硬貨のデザインには、女神ローマを中央に配置し、皇帝などを従者のように配したものも見られます。

皇帝崇拝は、東方の独自性に対する実用的かつ巧妙な反応として生まれました。伝統的な宗教の要素を修正し、共和政政府と組み合わせることで、元首の下での帝国の一体感を示す新たな枠組みを作り出し、成功を収めました。西方では、ガリア、ゲルマン、ケルトには君主崇拝の伝統もローマ的な管理体制もありませんでした。ルグドゥヌムには皇帝崇拝の中心地が設けられ、ローマをモデルとした州または自治体単位の議会が導入され、地元の有力者たちは皇帝崇拝の神職の選挙を通して市民権の恩恵を享受しました。その祭壇は、女神ローマとアウグストゥスのために捧げられました。その後、女神ローマは西方でも貨幣や金石文に頻繁に登場するようになりました。女神ローマに関する文献が少ないのは、無視されたからではなく、あまりにも一般化したためだと考えられます。初期のアウグストゥスの時代には、女神ローマは生きた皇帝の配偶者よりも上位に位置づけられていたようです。

アフリカ属州では、レプティス・マグナとMactarに女神ローマとアウグストゥスの神殿がありました。イタリア半島では、6つの神殿が見つかっています。ラティウムには2つあり、そのうち1つは個人によって建てられました。ティベリウスの時代には、オスティアに女神ローマとアウグストゥスの大きな神殿がありました。

ローマ市内における初期の女神ローマへの信仰は、ハドリアヌス帝が建設したウェヌスとローマ神殿において、ウェヌスへの信仰と組み合わされました。これは当時市内最大の神殿であり、Pariliaという祭りを形を変えて復活させる意図がありましたが、祭りは女神ローマの東方での祭りに倣って Romaea と呼ばれるようになりました。この神殿には、ヘレニズム風の女神ローマの座像があり、その右手にはローマの永遠性を象徴するパラディウムがありました。ローマでは、これは斬新な具現化でした。ギリシアでローマを威厳のある女神として解釈したことで、軍事支配の象徴だったものが、帝国の庇護と厳粛さの象徴へと変わっていったのです。

女神ローマの地位は、必ずしも安定したものではありませんでした。クロディウス・アルビヌスがセプティミウス・セウェルスにルグドゥヌムで敗北すると、ルグドゥヌムの神殿から女神ローマ信仰が排除されました。ローマとアウグストゥスは、新たな抑圧された皇帝崇拝の対象となりました。歴史家のFishwickは、このルグドゥヌムにおける儀礼の変化を、奴隷による家長崇拝に例えています。このような状況がどの程度続いたのかは不明ですが、これは他に見られない独自の発展でした。

その後の混乱した時代でも、例えばプロブス帝はドミナートゥスの冠を被った姿を硬貨に描かせていますが、裏面にはウェヌスとローマの神殿が描かれています。プロブス帝の肖像が専制君主の主権を示す一方で、女神ローマは、その主権がローマの伝統と帝国の統一に裏打ちされたものであることを示しているのです。

参考文献

Ando, Clifford, Imperial ideology and provincial loyalty in the Roman Empire, illustrated, University of California Press, 2000. ISBN 0520220676
Beard, M., Price, S., North, J., Religions of Rome: Volume 1, a History, illustrated, Cambridge University Press, 1998. ISBN 0521316820
* Mellor, R., "The Goddess Roma" in Haase, W., Temporini, H., (eds), Aufstieg und Niedergang der romischen Welt, de Gruyter, 1991. pp 950-1030. ISBN 3110103893

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