ワッサーフ史

『ワッサーフ史』の概要と重要性

『ワッサーフ史』（ペルシア語: Tarikh-i Waṣṣāf‎）は、12世紀後半から13世紀初頭にかけてのモンゴル帝国の歴史を詳細に述べたペルシア語の歴史書です。この書物は、シャラフッディーン・アブドゥッラー・イブン・ファドゥルッラー・シーラーズィーによって編纂され、正式なタイトルは『領土の分割と歳月の推移』（ペルシア語: Tajziyat al-amṣār wa-tazjiyat al-a'ṣār‎）です。しかし、著者の名に由来して「ワッサーフ史」という愛称で呼ばれることが一般的です。

史書の背後にある文脈

この作品は、『世界征服者史』の続編としての位置づけがあるとされています。具体的には、『世界征服者史』の終章に記されたバグダードの陥落から、フレグ・ウルスの君主アブー・サイードの治世にかけての出来事を対象にしています。1312年、この作品はフレグ・ウルスの首都であるスルターニーヤで献上され、シーラーズィーは「御前の頌詞者」（ペルシア語: وصّافِ حضرت Waṣṣāf-i-Ḥaḍrat）という称号を得ました。

内容の独自性と特徴

『ワッサーフ史』は、先行する史書との違いに留意して書かれており、特に『集史』が公式の国家出版物として歴史の「正典」とされる一方、ワッサーフ史は個人の視点や体験に基づく多くの逸話を含んでいます。これにより、他の史料には見られない独自の記述が豊富に盛り込まれており、モンゴル帝国の歴史研究にとって欠かせない重要な資料となっています。

一方で、本書は韻文を多く使用した特異な文体で書かれているため、理解が難しいとされます。また、一般に扱われる他のペルシア語の歴史書が多言語に翻訳される中で、『ワッサーフ史』はドイツの研究者ハンマー・プルグスタルによる1巻の翻訳のみが存在しています。

各巻の内容

本書は全5巻から構成されており、内容は次のようになります：

1. 第1巻: 序文、モンケ・カーンの死、大元ウルスのクビライとテムルの治世、フレグ・ウルスのフレグ・アバカ・アフマドの治世。
2. 第2巻: ファールスのアタベク朝史、フレグ・ウルスのアルグンの治世、ロルのアタベク朝史。
3. 第3巻: フレグ・ウルスのゲイハトゥ、バイドゥ、ガザンの治世、ケルマーンとデリーのスルタン史。
4. 第4巻: 大元ウルスのテムル、カイシャン、アユルバルワダの治世、フレグ・ウルスのオルジェイトゥの治世前半、世界征服者史の抜粋。
5. 第5巻: オゴデイ、ジョチ、チャガタイの後裔の記述、オルジェイトゥの治世の後半、アブー・サイードの即位と1328年までの治世。

まとめ

『ワッサーフ史』は、モンゴル帝国の詳細な歴史を知る上で欠かせない資料であり、著者の独自な視点と文体が特徴的な作品です。この史書を通じて、当時の社会や政治情勢を深く理解する手助けとなるでしょう。また、今後の翻訳や研究が進むことで、その重要性がさらに認識されることが期待されます。

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