ヴァイオリンとチェロのためのソナタ (ラヴェル)

モーリス・ラヴェルの《ヴァイオリンとチェロのためのソナタ》（フランス語: Sonate pour violon et violoncelle）は、1920年から1922年にかけて作曲された室内楽曲です。この作品は、わずか二つの弦楽器、ヴァイオリンとチェロのために書かれており、ラヴェルの数ある室内楽曲の中でも特に簡素な編成を採っています。

このソナタの genesis は、音楽雑誌『ルヴュ・ミュジカル』が1920年に企画したクロード・ドビュッシーへの追悼特集号「ドビュッシーへのトンボー」（Tombeau de Claude Debussy）に遡ります。ラヴェルはこの企画のために第1楽章を書き下ろし提供しました。その後、彼はこの楽章を基に、およそ2年の歳月をかけて3つの後続楽章を完成させ、全4楽章からなるソナタとして全体の構成を整えました。作品は「クロード・ドビュッシーの追憶に」という献辞を冠して、デュラン社から出版されています。

公式な初演は1922年4月6日に行われました。ヴァイオリンをエレーヌ・ジュルダン＝モランジュが、チェロをモーリス・マレシャルがそれぞれ担当しました。

この小編成による室内楽ソナタという発想は、ドビュッシーが晩年に手掛けた一連の室内楽曲、具体的には《ヴァイオリン・ソナタ》、《チェロ・ソナタ》、そして《フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ》といった作品群から影響を受けている可能性が指摘されています。しかしながら、ドビュッシーが色彩豊かな和声を探求したのに対し、ラヴェルのこのソナタでは線的な書法と多声的なテクスチュアが前面に打ち出されており、両者の明確な違いを示しています。

作品全体の簡素に切り詰められた楽器編成と、楽器それぞれの独立した線を強調する書法は、第一次世界大戦後の音楽界に見られた新しい傾向、特にイーゴリ・ストラヴィンスキーやパウル・ヒンデミットといった作曲家たちが推し進めた即物的で対位法的な音楽の潮流との共通点を示唆しています。これは当時のラヴェルが、新しい時代の音楽語法に積極的に関心を寄せていたことの表れと言えるでしょう。

また、音楽語法においては、半音階的な動き、教会旋法、そして複雑なポリフォニー（多声）が多用されています。その結果、このソナタは随所で無調や多調を思わせる響きに満たされており、当時のバルトーク・ベーラや、第二次ウィーン楽派（新ウィーン楽派）の作曲家たちが開拓していた前衛的な響きへのラヴェルの関心をも垣間見せています。伝統的な形式の中に、革新的な響きを融合させた点がこの作品の大きな特徴です。

楽曲は以下の全4つの楽章で構成されており、全曲を通して演奏するのに要する時間は約20分です。特に、最初と最後の楽章の主題には、ハンガリーの民俗音楽を思わせる独特の色彩が添えられています。

1. Allegro（アレグロ）
2. Très vif（きわめて速く）
3. Lent（緩やかに）
4. Vif, avec entrain（ヴィーヴォ・コン・スピリト）

このソナタは、ラヴェルの円熟期における作曲家としての探求心と、当時の新しい音楽潮流への呼応を示す重要な作品であり、二つの楽器による室内楽の可能性を広げた傑作として知られています。

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