ヴィオラ協奏曲 (ウォルトン)

ウィリアム・ウォルトン：ヴィオラ協奏曲

イギリスを代表する作曲家、ウィリアム・ウォルトンによって1929年に作曲されたヴィオラ協奏曲は、この楽器のための重要なレパートリーとして、20世紀以降の音楽史に確固たる地位を築いています。作品はアバコンウェイ卿夫人のクリスタベル・マクラレンに献呈されましたが、その構想は当時の偉大なヴィオラ奏者、ライオネル・ターティスを想定して進められました。しかし、完成した楽譜はターティスに受け入れられず、作品の初演（1929年12月2日、ロンドン、プロムス）の独奏は、作曲家であり優れたヴィオラ奏者でもあったパウル・ヒンデミットが担当しました。ヒンデミットはその後もこの作品を積極的に演奏し、その普及に大きく貢献しました。

この協奏曲は、ウォルトンにとって初めての協奏曲作品にあたります。作曲にあたっては、彼が深く敬愛していたセルゲイ・プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番がモデルとされたと言われています。ウォルトンはその後も、ヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲、そしてピアノとオーケストラのための「協奏交響曲」といった重要な協奏的作品を生み出しています。

ヴィオラという楽器のための協奏曲は、ロマン派の時代には目立った作品が少なく、その主要なレパートリーの多くは20世紀になってから書かれました。ウォルトンのヴィオラ協奏曲は、同じく作曲家でありヴィオラ奏者でもあったヒンデミットのヴィオラ作品群（例えば『室内音楽第5番』や『白鳥を焼く男』など）や、ベーラ・バルトークによるヴィオラ協奏曲と並び、このジャンルの復興と発展を牽引した先駆的な作品として高く評価されています。

本作は数多くの名奏者によって録音されています。ヴィオラ奏者としては、ユーリ・バシュメット、今井信子、ウィリアム・プリムローズといった巨匠たちの演奏が特に有名です。一方で、ナイジェル・ケネディ、マキシム・ヴェンゲーロフ、ユーディ・メニューインといったヴァイオリン奏者による録音も多数存在し、この作品の幅広い魅力と演奏上の柔軟性を示しています。

楽器編成

ウォルトンは1961年にこの協奏曲のオーケストレーションを改訂しました。現在演奏されるのは、ほぼこの改訂版です。オリジナルの版は三管編成（トランペット3本を含む）でしたが、改訂版ではオーケストラの響きがより洗練され、重厚すぎる部分が見直されました。また、編成にハープが新たに加えられるなどの変更が施されています。

改訂版の主要な楽器編成は以下の通りです。

独奏ヴィオラ
木管楽器：フルート2（うち1本はピッコロ持ち替え）、オーボエ2（うち1本はコーラングレ持ち替え）、クラリネット2（うち1本はバスクラリネット持ち替え）、ファゴット2
金管楽器：ホルン4、トランペット2、トロンボーン3
打楽器：ティンパニ
その他：ハープ
弦五部：記号のある箇所では全員で演奏しますが、それ以外の部分では第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ3、チェロ2、コントラバス2という指定人数で演奏します。

楽曲構成

作品は、一般的な3楽章構成を採用しています。

1. Andante comodo
2. Vivo, con molto preciso
3. Allegro moderato

各楽章は、ヴィオラの抒情的で時に情熱的な旋律と、オーケストラの巧みな対話によって、ウォルトンならではの洗練されたスタイルを表現しています。

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