ヴィーナス・アンド・マース/ロック・ショー

「ヴィーナス・アンド・マース/ロック・ショー」（原題: Venus and Mars/Rock Show）は、ウイングスが1975年にシングルとしてリリースした楽曲であり、同年に発表されたアルバム『ヴィーナス・アンド・マース』の冒頭を飾るメドレー形式の楽曲です。この曲は後に、ウイングスの歴史をまとめたコンピレーション・アルバム『夢の翼〜ヒッツ&ヒストリー〜』にも収録されています。

制作背景

本楽曲は、1975年1月にアメリカ、ニューオリンズで行われたレコーディング・セッション中に録音されました。このセッションは、アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』の主要な制作拠点となりましたが、その最中にドラマーのジェフ・ブリトンがバンドから離れるという予期せぬ出来事が発生しています。曲は、アコースティックギターの弾き語りが印象的な静かなパート「ヴィーナス・アンド・マース」で幕を開け、やがて力強く華やかな「ロック・ショー」へと展開していくドラマチックな構成となっています。

興味深いことに、録音自体はメドレーの順番とは逆に行われました。まず「ロック・ショー」が録音され、その後「ヴィーナス・アンド・マース」が個別に録音された後、ポストプロダクションの段階で一つのメドレーとして編集されたものです。

楽曲の特徴とバージョン

アルバムに収録されたバージョンは6分52秒という比較的長い演奏時間ですが、シングルとしてリリースされるにあたっては、ラジオ放送などを考慮して3分以上短く編集されたバージョンが用いられました。

「ロック・ショー」の歌詞には、韻を踏む言葉遊びの中で、著名なギタリストであるジミー・ペイジの名前が登場します。さらに、アムステルダムのコンセルトヘボウ、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン、ロサンゼルスのハリウッド・ボウルといった、世界的に有名なコンサート会場の名前が織り込まれており、まさにロックンロールの世界観を描いた内容となっています。

商業的成功

本楽曲は、イギリス国内では残念ながら主要なヒットチャートにランクインしませんでした。しかし、アメリカでは異なる反応を示しました。ビルボード誌のチャートでは、1975年12月13日付で最高位12位を記録するヒットとなりました。また、キャッシュボックス誌のチャートでも、12月6日付と13日付の2週間にわたり最高位16位を記録しています。1975年は、この曲に加え「あの娘におせっかい」や「ワインカラーの少女」といったヒット曲も生み出しており、ポール・マッカートニーとウイングスが商業的にも批評的にも好調を維持していた時期と言えます。

B面曲「磁石屋とチタン男」

シングルのB面には、「磁石屋とチタン男」が収録されています。この曲もA面と同じく、ニューオリンズでのレコーディング・セッションで録音されました。特徴として、マーベル・コミックスのキャラクターであるマグネトー、チタニウム・マン、クリムゾン・ダイナモが登場する、物語のような形式をとっている点が挙げられます。

演奏者

ウイングス

ポール・マッカートニー: リード・ボーカル、ベースギター (#1、2)、エレクトリック・ギター、フィンガーシンバル、ピアノ (#1)、ハンドベル、メロトロン (#2)
リンダ・マッカートニー: ピアノ (#1)、バッキング・ボーカル、ハンドベル、モーグ・シンセサイザー、オルガン (#2)
デニー・レイン: モーグ・シンセサイザー、シタール (#1)、バッキング・ボーカル、エレクトリック・ギター、ハンドベル (#2)
ジミー・マカロック: エレクトリック・ギター (#1、2)、12弦ギター (#1)、アコースティック・ギター、バッキング・ボーカル、ドラムス、ハンドベル、モーグ・シンセサイザー (#2)
ジョー・イングリッシュ: ドラムス (#1、2)、バッキング・ボーカル、ハンドベル、パーカッション (#2)

ゲスト・ミュージシャン

トニー・ドーシー: クラリネット (#1)
アラン・トゥーサン: エレクトリック・ギター、ピアノ (#2)
ケネス・ウィリアムズ: コンガ (#2)

(#1は「ヴィーナス・アンド・マース」、#2は「ロック・ショー」を示す。)

この楽曲は、アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』の世界観を印象的に提示する重要なオープニングトラックとして、ウイングスの代表曲の一つに数えられています。

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