一条美賀子

一条美賀子：激動の時代を生きた将軍の妻

一条美賀子（いちじょう みかこ）は、天保6年（1835年）に生まれ、明治27年（1894年）に没した幕末から明治時代の女性です。最後の征夷大将軍、徳川慶喜の正室として知られています。実父は今出川公久、養父は一条忠香であり、昭憲皇太后は義理の妹にあたります。幼名は延君（のぶきみ）、当初の諱は省子でした。

時代の波に翻弄された結婚

美賀子は当初、慶喜の婚約者であった一条忠香の娘、千代君（照姫）の代役として選ばれました。千代君が婚儀直前に疱瘡にかかったため、急遽、白羽の矢が立ったのです。忠香の養女となり「省君」と改名し、嘉永6年（1853年）に婚約。江戸に下向後、安政2年（1855年）に徳川慶喜と結婚しました。

しかし、結婚生活は決して幸福なものではありませんでした。安政5年（1858年）に待望の女子を出産するも、わずか数日で夭折。その後、慶喜は将軍後見職として京都へ赴き、夫婦は長い別居生活を送ることになります。慶応2年（1866年）に慶喜が将軍に就任しますが、美賀子が江戸城大奥に入ることはありませんでした。王政復古の大号令後、彼女の尊称は「御台所」から「御簾中」に改められました。

慶応4年（1868年）、慶喜は将軍職を返上し、上野寛永寺、駿府宝台院にて謹慎生活に入ります。美賀子は夫に会うことすら許されず、明治維新後も静岡と東京で別居生活を送りました。この頃、「省子」から「美賀子」へと改名しています。

晩年の穏やかな日々

明治2年（1869年）、慶喜の謹慎が解除され、美賀子は10年ぶりに静岡で夫との生活を共にします。慶喜はその後、側室を迎えましたが、その間に生まれた子供たちはすべて美賀子が実母として育てました。

明治27年（1894年）、美賀子は乳癌を発症し、東京の徳川家達の屋敷で治療を受けますが、容態は悪化。高松凌雲の執刀による手術もむなしく、7月9日に60歳で亡くなりました。辞世の句は、静岡から見送った慶喜に送った和歌として知られています。

「かくはかり　うたて別をするか路に　つきぬ名残は　ふちのしらゆき」

人となり

美賀子の結婚は、代役としての側面が強く、さらに慶喜が義祖母である徳信院と親密であったため、寂しい新婚生活を送ったと言われています。ようやく授かった子供もすぐに亡くしたことで、内向的な性格になったとも伝えられています。慶喜の謹慎解除後、貞芳院や徳信院の取りなしで静岡で同居し、夫婦関係はいくらか修復されたようです。しかし、病弱であったため、その後子供を授かることはありませんでした。

夫婦仲は必ずしも良好とは言えませんでしたが、慶喜は美賀子の実家である今出川家を大切にし、将軍後見職時代には世話になったとされています。また、慶喜が将軍在職中に江戸城に入城しなかったため、美賀子も将軍正室でありながら一度も大奥に入ることはありませんでした。

関連作品

一条美賀子を題材とした小説やテレビドラマも存在します。

小説：司馬遼太郎『最後の将軍 徳川慶喜』、林真理子『正室 慶喜と美賀子』
テレビドラマ：NHK大河ドラマ『徳川慶喜』、『青天を衝け』など

一条美賀子は、激動の時代に翻弄されながらも、将軍の妻としての務めを果たし、ひっそりと生きた女性でした。その生涯は、時代の影に埋もれがちですが、歴史の一側面を照らし出す貴重な存在と言えるでしょう。

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