一瀬勇三郎

一瀬勇三郎

一瀬勇三郎（安政元年11月21日（1855年1月9日）生 - 昭和7年（1932年）6月15日没）は、明治時代から昭和初期にかけて活躍した日本の司法官僚です。没後、従三位勲二等の栄典が贈られています。

若き日々から法曹の道へ

安政元年（1854年）、肥前国大村城下の佐古郷に、大村藩士である一瀬喜多右衛門達徳の次男として生まれました。幼少期には藩校「五教館」で学び、後に寄宿生となります。明治3年（1870年）、五教館を訪れた藩主大村純煕の前で素読を披露したことで認められ、東京への遊学を命じられました。同年秋、大村藩からの貢進生として、長崎港から外国汽船に乗って横浜へ渡り、大学南校の仏語科に入学します。ここでは、杉浦重剛や穂積陳重といった後年の著名人と共に学びました。

大学南校は後に第一番中学、そして開成学校へと改組されますが、勇三郎はフランス語を学ぶ諸芸学部に所属し続けました。明治8年（1875年）9月、司法省が運営する明法寮への転学が指示され、ここでフランス法学の権威ギュスターヴ・ボアソナードに師事しました。ボアソナードとの師弟関係は深く、卒業後も長期にわたって文通が続いたといいます。

司法官僚としてのキャリア形成

明治9年（1876年）8月に明法寮を卒業すると、直ちに司法省での勤務を開始しました。省内では様々な部署で実務経験を積み、明治16年（1883年）9月6日には判事に任官。司法省での業務のかたわら、ボアソナードの講義録の翻訳にも従事しました。また、講法学舎や明治法律学校（現在の明治大学）で教鞭を執り、フランス民法などを講義するなど、教育分野でも活動しています。

明治17年（1884年）には司法省法学校を卒業し、引き続き司法省で要職を担いました。この頃から、法学校で民法証拠篇の講義も担当しています。

ヨーロッパでの経験

明治19年（1886年）、勇三郎は官職にありながら自費でヨーロッパへの視察旅行に出発しました。ドイツのベルリンでは司法行政や裁判事務の調査を行い、会計検査院設立のために訪独していた同郷の渡辺昇の案内役も務めました。明治20年（1887年）には、第二回万国商法会議の副委員としてベルギーのブリュッセルに3ヶ月滞在しました。その後、明治22年（1889年）にはフランスのパリに移り、横田国臣らと共に司法制度に関する調査を深め、明治23年（1890年）5月に日本へ帰国しました。

各地での活躍

帰国後、明治23年（1890年）8月11日に検事に転任し、長崎地方裁判所勤務となります。同年10月には検事正に昇進し、長崎では脱獄囚に関する事件や上海での殺人事件といった記憶に残る出来事に立ち会いました。

明治25年（1892年）9月には司法省参事官に任じられ、民刑局を兼務。長野や富山への出張も経験しました。明治26年（1893年）5月には横浜地方裁判所検事正に就任。短い在任期間でしたが、領事裁判が行われる当時の状況下で、日本人に対するアメリカ人による銃撃事件において正当防衛の判断に異論を唱えたり、売春業を営む外国人女性を領事に訴追したりするなど、毅然とした対応を見せました。

明治27年（1894年）1月には大阪地方裁判所検事正へ転任。大阪では関西法律学校の評議員を務め、明治29年（1896年）には同校の校長に推挙されました。また、官舎裏の北野警察署で剣道に励む一面もありました。刑法改正草案を新聞記者に見せたとして譴責処分を受けたことや、大阪控訴院長との意見対立なども経験しています。

明治31年（1898年）6月には広島控訴院検事長、明治35年（1901年）6月には広島控訴院長へと昇進しました。広島控訴院長時代には、大審院の刑事訴訟上告期間設定告示に対し、期限後も受け入れる方針を示すなど、独自の見解を貫きました。また、法廷で弁護士を検事と同等の席次とする改革や、市民の意見を聞くための警鐘箱の設置といった取り組みを行っています。

明治42年（1909年）2月には函館控訴院長に任命されました。明治44年（1911年）には北海道を行啓中の皇太子嘉仁親王（後の大正天皇）を控訴院に案内し、食事を共にする機会を得ています。控訴院を札幌へ移転させる計画が持ち上がると、これに強く反対し、在任中は移転を阻止しました。

晩年と人物像

大正2年（1913年）、政党の意向による司法界の人事刷新の中で休職となり、東京の自宅に隠棲しました。この時期、旧友である杉浦重剛と数十年ぶりに交流を再開し、大正9年（1920年）の宮中某重大事件では重剛を助けて問題解決に尽力しました。また、日本中学校の協議員として活動したり、外国人土地法や陪審法に反対する論陣を張ったりしています。大正期には、先妻、後妻、そして親友の杉浦重剛と相次いで死別し、東京で独居生活を送りました。

昭和2年（1927年）10月、故郷の大村町に帰郷し、余生を過ごしました。大村では、松林飯山遭難の碑の建設に尽力するなど、地域の活動にも関わっています。昭和3年（1928年）6月7日に正式に退職となりました。

昭和7年（1932年）5月、風邪から肺炎を併発し体調を崩し、同年6月15日に死去しました。享年77。

勇三郎は宴会を好まなかった一方で、乗馬を趣味とし、特に広島で飼っていた馬を「広島一」と名付けるなど深く愛しました。函館でも馬で周囲を散策しましたが、落馬して入院した経験もあります。若年より囲碁も嗜みましたが、腕前はあまり上達しなかったようで、大村帰郷後は寺の和尚らと楽しんだといいます。洋行中はビリヤードにも興じたようですが、こちらも密かに楽しむ程度だったようです。

家族と業績

父は代々の大村藩士。若松甘吉の長女スミ子と結婚し、一子卓郎を儲けましたが、息子は幼くして亡くなっています。妻スミ子と死別した後、その妹キム子と再婚しましたが、こちらも先立たれています。晩年は母方の従妹やその子、甥の世話を受けました。

司法官僚としての業績に加え、ボアソナードやフォースタン・エリー、ムールロンといった著名な法学者の著作や講義録の翻訳を多数手がけており、近代日本の法制度の整備に貢献した功績も残しています。

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