三国遺事

『三国遺事』について

『三国遺事』（さんごくいじ）は、13世紀末に高麗の著名な僧、 一然（1206年 - 1289年）によって書かれた史書です。 その成立時期は主に1270年代後半から1280年代中頃にかけてであり、一然が亡くなった後、弟子の無極が補筆し、ついには刊行されたと考えられています。 これは朝鮮半島の現存する最古の史書にあたる『三国史記』（1145年完成）に次ぐ古い文献の一つであるものの、 その引用元が不明確である古書を扱っているため、史書としての信頼性には問題があります。それにもかかわらず、古代朝鮮の歴史を知るための資料は現在でも非常に限られているため、『三国史記』とならんで朝鮮古代史の基本的な文献と位置づけられることが多いです。また、『三国遺事』では、 邦歌（郷歌）を14首伝えており、この点においても言語学的な価値が高いとされています。

編集意図と内容

『三国史記』は、儒教の影響を強く受けた金富軾という学者が編纂したもので、 そのスタイルは中国の史書（紀伝体）に従っています。このため三国時代の多くの伝説や伝承が抹消されてしまいました。 一方、一然はこの点に不満を感じ、金富軾が見落とした故事を集め、自身の宗教的背景とも関連させて、仏教の普及に関する事実をも収める形で編纂しました。『三国遺事』は、ある意味で、正史から失われた伝説や物語を再整理した書物であり、単なる『三国史記』の補足という位置づけにとどまらず、当時の元朝の支配に抗うような意義をも有します。この点は彼が新たな民族意識を高めようとしていたことを示すものであり、形式的には王暦や年代記の体裁を取っています。

構成

内容は全五巻から成り、それぞれの巻は次のようになります：

• - 巻一（王暦・紀異）: 新羅、高句麗、百済、駕洛国に関する王代や年表を収録し、「紀異」では檀君朝鮮から始まる各国の興亡や新羅の逸話が記されています。
• - 巻二（紀異）: 前巻の続きとして新羅末期の金傅大王から百済や後百済、駕洛国に関する記録が収められています。
• - 巻三（法興・塔像）: 仏教の受容に関する詳細に焦点を当てています。
• - 巻四（義解）: 高僧や律師の伝記について記述されています。
• - 巻五（神呪・感通・避隠・孝善）: 密教に関する神僧の事跡や修行の神意など、仏教の教えに基づく美談が書かれています。

版本と影響

『三国遺事』の最も信頼性の高い版本は、李氏朝鮮の中宗の時代に刊行された正徳本（1512年）であり、その後、さまざまな形で伝えられました。18世紀には安鼎福による手写本が日本に持ち帰られ、1921年には京都帝国大学で影印版が出版されました。このように多くの版本が存在するため、各版の校訂作業が進められ、1973年には最良のテキストが確定しました。

結論

『三国遺事』は、ただの史書ではなく、古代朝鮮の文化や宗教、民族の独立への思いを反映した重要な文献です。その内容は多様な伝承や仏教の教えを含み、古代史を知るための貴重な手引きとなっています。

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